パレット (その二)
『みづゑ』第四十五
明治41年12月3日
陶製で、幾個にも區別された硯がある、これも室内用で、乾製繪具を溶くに用ひられる。
パレツトが汚れてゐないと大美術家でないやうに思ふ人もある、こんな人はパレツトが何のために白く塗つてあるか知らぬのであつて、いつも畫面をパレツトの代用にして居る、このやうな人に限つて寫生しながらいつも嘘の色をつけて平氣でゐる。大美術家を衒つて失敗した寫生畫を作るよりも、パレツトが清潔で素人呼はりをされても。立派な寫生の出來る方がよい。
パレツトは常に日本紙か綿布で拭つて清潔にして置くべきものであつて、用の濟んだ時は、筆洗の殘水を筆に含ませて繪具をよく洗ひ取つて置くことにしたい。
二つ折パレツトに繪具を出すには、明るい色から暗い色との順序で并べてゆく、白、黄、赤、緑、藍といふやうにする、繪具が勝手放題に並べてあつては色を見出すのに不便であり、又同感色が並んでゐたら、隣りの繪具に混じてもさして害はないが、黄と藍とでも並んでゐると、混ると緑になつて双方使用に耐へぬことになる。
パレツトの上の繪具の順序が極まつてゐると、無意識に筆を持つて往つても、目的の色をつける事が出來るやうになる、暗闇でも分る筈である。
箱入の繪具は、必ずしも明るい色から暗い色と順序よくは並んでゐないから、自分で取合のよいやうに入換るもよい。(完)