水彩畫の繪具(その二)
『みづゑ』第四十六 P.9
明治42年1月3日
陶器入の練製も硬くなる恐れがある、これも大形と小形とあるから、多く用ゐぬものは小形のを求めたらよい。
乾製繪具は、種類によつて其儘繪具箱へ入れて置て、筆の先で充分溶けるのもあるが、中には硬くして始末にゆけぬのもある、尤も期節にもよるので、春夏の候、空氣に濕氣の多い時分には大低軟らかになつてゐる。
乾製繪具を練製と同じように軟らかにするにに、茶碗か盃の中へ入れ、熱き湯をヒタヒタに入れて半日程置くと、心まで軟らかになる、その時湯を捨てゝ、グリスリンを少し入れ練つて置き、入用の時繪具箱なりパレツトへなり少しづゝ出すのである。このグリセリンを入れる量が一寸加減もので、総じて透明質の繪具、殊にクリムソンレーキやフーカスグリーンの如きは流れ出す憂があるから、ほんの少し入れる、コバルトやエローオークルのやうな色ぼ澤山グリセリンを入れても差支ない。
繪具の良否は製造會社によつて定むることも出來るが、變色する繪具に其價の高下に拘はらず如何ともすることが出來ぬ、廉價の繪具で不變色なのもあり、高價にしてやはり廉價のものと同樣に變色するのもある。
多くの會社の製造される繪具には、普通美術家用と學生用とある、時として學生用の安物計り作る家もあり、叉美術家用ばかり造る家もある。
日本に輸入されてゐるものは、佛國製ではブランシ會社製の大小チユーブ、陶器入、ケーク、並びに繪具箱で、次にに英國のニユートン製が盛んに來てゐる、關西ではロンドンのローニー會杜の分で、學生用チユーブが多く、近頃は森親子商會で、同じくロンドンのラファエル會社の美術家用チユーブを取よせた。近くに文房堂及び大阪の吉村で、ロンドンのニユーマン會社の美術家用を取よせることになつてゐる。