水彩畫の繪具(その三)


『みづゑ』第四十六 P.12
明治42年1月3日

 日本製では村田と花廼屋といふのが有名である、其他にも安繪具を造る處は澤山あるらしい。
 右に擧げた會社うちで、吾々が知れるかぎりで一番信用してよいのはニユーマン製である、ニユーマンといふ繪具屋はロンドンの老舖で、何百年續いてゐるといふて威張てゐるので、店の様子など何の粧飾もなく、品物も澤山並んではゐないが、奥には大したものがある、そしてその商業のやり方も極々質實ぐこれ迄あまり外國へ品物を出さぬ、隨てまだ日本へも來ていないのであるが、タトヱはチユーブ入りの繪具として、他の會社の分は大仕掛けに器械の力で繪具を混ぜて詰めるが、ニユーマンでは手で練るのだ、甚だ舊式のやり方ではあるが、それが爲めにムラが出來ぬ、他の會社の繪具は、チユーブから押出すと初めに水が出て後に繪具が固まつて出たり、またフーカスグリーンのやうな混合色は、黄と青と別々になつてゐたりするが、この會社の分は决してそんな事はない、それ等を特色とすべきで、隨て英國の畫家は多く此家の品を使用するとの事である、そして此會社へ、繪具なり其他の道具なり注文する時、畫家であると言ふてやれば定價の三分の一を割引してくれる、この會社の商標は王冠印である。
 ニユートン會社は前者と異つて居るが大仕掛で、店がゝりも堂々たるものである、そして盛んに外國へ輸出する、元來獅子の印を商標としてゐた處、花廼家で不德義にも同じ商標を登録したため、一時無印で來てゐたが、近來日本へ送る分だけトヵゲの印をつけることになつた。
 繪具は美術家用と學生用と二種ある、價はニユーマンと同樣であるが、コバルトの如きは三分一程高價についてゐる、そしてニユーマンよりは種類が少ないやうだ、例へばニユーマンでば、レモンヱローにライト、ミツドル、デユープと三通りあるが、ニユートンではたゞ一通りといふやうに複雜ではない、此家では畫家を名乘つてゆくと定價の四分の一を割引する。(つゞく)

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