問に答ふ
『みづゑ』第四十六
明治42年1月3日
■一印刷物に描ける樹幹道路建築物等を見るに頗る美麗なり、然るに僕が實景に臨んで見ると非常に汚れたる觀あり、その儘に描かんか殆と見るに耐へず觀察の足らざろ爲めにや又は斯くの如き時は色彩應用論などの描法を用ひてよきや自然を離れるといふやうなことなきや二遠山等の肉眼的に見ゆる皺襞は主觀たらざる場合省略塗抹して差支なきや三會友氏名は『みづゑ』第十五以來掲載あるものゝみにや(織田將一)◎一昔は繪を殊更に美しく畫いたものであるが近來はかゝる傾向殆どなし、印刷物は原色版でも小なるものは色が單純に現はれるため美しと見れば見られもすべし、極端なる寫實家は時に醜の方面のみを描いて是も自然現象なりといへど畫家は好んで醜き色を見るにも及ばざるべく、自然に美しい方に傾くならん、何でも自己の信じた通り色のを出せばそれにてよろしからん二小なる繪には細かき皺迄描くに及ばず大體の感じだけにてよけれど要するに程度如何にあること故滿足な答へを誌上に示し難し三然り、折を見て全會友の現住所姓名を掲出すべし■水彩畫階梯の口繪は何人の筆にや(間瀬生)◎第一版は大下藤次郎氏第二版の分は種々の人の執筆故圖柄を明記されねば御答出來ず■一透視畫法の參考書二投稿の繪畫に三色以内とあり同じ色にて濃淡ある場合は如何(山の人)◎一平瀬氏著用器畫法第三解説共三十八錢日本橋通三丁目成美堂又は井汲氏著用器畫法第三解説共三十八錢日水橋本町金港堂二濃淡及び掛含せ差支なし■一油繪カンヴアスの上に直らに彩料を塗りてよきやカンヴァスには下地といふもの必要なりや二カンヴアスには直ちに輪廓を描きて後下地塗をするにや(兵庫MY生)◎麻布または帆木綿の如きものにて自己で製造するなら下地が入用なれど彩料店にて賣れるものにはその必要なし、直ちに木炭にて輪廓をとり、その上を墨若くは赤インキにて線を引き羽毛にて木炭を掃ひ去れば、インキの輪廓殘るべく、その上に繪具を持ってかくなり。尤も或る派では、この時ある一色にて蔭と日向との區別を描き別け、後ちに着色することもあり■尾瀬沼號は殘本ありや、水彩風景畫帖第一集も殘本ありや(KK生)◎前者は澤山あり後者は十數冊を剩すのみ■着彩後色彩のさむるは如何なる爲にや(曉霞生)◎水に潤ひてゐるうちは繪具が濃く見ゆれど色が褪めるのは通例ですそれ故経驗ある人は少しづゝ初めから濃く畫きます