水彩畫の繪具(その四)


『みづゑ』第四十七
明治42年2月3日

 日本に一番餘計に來てゐるのは佛のブランシ會社の製品で菱形にBの字はその商標である、美術家用の分も前二記會社よりもよほど品質が下るやうに思はれる、そして色もよくないのがある、ヴアリミリオンは黄を甚しく含んでゐるカドミユームオレンヂなど發色がよくない。學生用のチユーブは近來甚だ粗惡になつて評判がわるい、是は仝會社の罪でなく、日木の文房商の賣債競争の結果日本製品を舶來と稱して混ぜて賣るためだともいふ、それかあらぬか横濱へは空のチユーブが澤山輸入されるとの話である日本製と名乗を上げたチユーブ入繪具がない處を見ると、是に横文字のペーパを貼つて舶來と號して賣つてゐるのかも知れぬ。
 箱入繪具の下等品、即ち貳圓以下の品は多く此會社の分が何處の店にもある、薄いブリキの皿に詰められた十幾種の繪具の中で、使用に耐えぬのはガンボーヂで、元來尤も透明たるべきこの色が、箱入の分は半透明若くは不透明のイヤな色調を呈してゐる、又時としてはカーマイン、クリムソンレーキの類に殆ど黒色に近いのがある、そして日本の自然を描くに必要なインヂゴーなどが入つてゐなくて不用の繪具が澤山詰められてある、それ等はよろしく取捨すべきである。
 ロー二ー會社の分には、學生用のチユーブが多く見られる、佛國製と別段異りはないやうである、レモンエローもカドミユームエローと同色などは殆ど滑稽に近い。

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