新年會

見聞子
『みづゑ』第四十七
明治42年2月3日

 日本水彩畫會の新年會は一月二十四日に研究所で開かれた、寒いけれども好天氣で、霜解け道をふんで出掛けたのは午後の二時、丁度階上て批評が始まつてゐる處、見渡した處作品はいつもの半分位しかない、有力の赤城サンや夏目サン、新進の鈴木サンの繪が見えない、八木サンは大ぶ振つてる、批評は河合、大下、磯部、藤島諸先生で、叮嚀に一枚々々合評される、これが濟んだのは三時頃、いつもの通りお菓子に蜜柑、これで月次會終り、續いて新年會が始まる、直ぐ餘興で、赤星サンと上村サソのピヤノと琴の合奏の次はピヤノ獨奏、それからは會員の剛の者が吾も吾もと出席して、琵琶、ハモニカ、假聲、詩吟、手品、大道商人、物眞似、七面相、金色夜又、落語等があつて、六十の出席者の腮を外させた、中でも素敵に振つてたのは、大道商入、ガマの油、福太夫の假聲、西尾君の落語は本職跣足、駄目太夫の金色夜叉と來ては、一人で千鳥の聲も、浪の音も、艚の漕ぎ方も、宮サンになつたり貫一になつたり、餡パンの月を出したり中々忙しい藝當であつた、上村、松平兩嬢の琴、六段の合奏を打止として散會したのは九時頃、それから跡に殘つてカルタをやる連中も何人かあつた樣子、何しろ大へんな新年會で、半日半夜腹を抱へて樂しく過した、いつもの例とあつて御馴走は五もくずしに茶椀むし、御酒がないので少數の上戸は失望したかも知れない。

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