水彩畫の筆(その一)


『みづゑ』第四十八 P.21
明治42年3月3日

 ★毛筆の赤毛が一番よいとなつてゐるが、黒毛でも可なり使用に耐へる、駝鳥の尻毛で出來た黒毛筆ば少し柔らかではあるが水をよく含む。
 筆には、錫の軸と羽根軸とある、通常同じ大きさで同じ毛質のものなら錫軸の方が高價であるが、これは體裁だけの話で使用上別段差異を認めない。
 和製としてASAOといふ印のある筆は中々艮好である。
 鹿?の夏毛で出來た腹毛筆といふのがある、和製としては中々使はれる、水の含み方は不充分ではあるが、硬軟の工合もよく可なり長く使用に耐くて、そして價も廉である、が近頃の出來のものは毛が柔らかで困る。
 筆の大きさに番號で區別されてゐる、一號より二號と段々大きさを増してゆく、通常多く使用されるのは五號以上で、ワツトマン九ツ切位ひの畫を描くにば八號位がよい、大きいのは十二號位迄ある、初めのワツシにはこの位ひの大きさのがよい。
 ヱハガキでも描く時は別として、通常スケツチには太い筆の方がよい、そしてあまり數は澤山入らぬ、八號位ひの一本でも間に合ふ、五號、八號、十二號と三本もあつたら澤山である。

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