寄書 告白
乙部笑波
『みづゑ』第四十八
明治42年3月3日
親愛なる『みづゑ』讀者諸兄姉に一寸御報告申上候、さて昨秋私共同好の者相圖りて、葉月洋畫會と申す畫會を設立致し候。本會に洋畫に趣味を有する者相集りて、相互に思想及び技術の發達をはかるを以つて、目的と致し候。目下會員は、二十餘名有之桃山中學校圖畫教師淺野快泉先生を主任とし幹事三名にて、其内二三の人を除く外は皆學業の餘暇に、高尚なる娯樂として樂しく斯道を研究致し居るものに御座候。會員の進歩を圖る手段として、毎月一回例會及寫生會を開催し、又順送畫帖とて會員の製作品を集めたる回覽雜誌を發行致し居り候。猶毎年一回展覽會を開催し公衆の縱覽に供するはずにて、又近々より會員中の有志のみモデルを傭ひて、夜間人體寫生を研究致す都合に御座候。左に本年一月中の重なる事項の大畧を記し申し候。二日、臨時寫生會、場處は大和田附近參會者は主任を始め會員五六名本年の初寫生である。傑作をでかして大天狗な人もあれば大切の御辨當を川の中へ初落しして、新年早々に泣きつ面の人もある。中には寒さに耐へ兼ねてか、寫生中途で、道具を往來へほうり出した儘、堤の影で、こつそり燒芋の初かぢりをやつてる人もあつたには恐れ入つた。歸りは皆んな一所に電車で歸つた。
十一日、例會、幹事氏原愁夢君の宅に開く。出席者は十名、田品數水彩貮十枝、氏原君のデツサン十葉、外に參考品として、主任の水彩油畫等十葉程と三宅、大下兩先生の水彩畫が三枚あつた。午後一時開會、最初に會員の互評あり、次に主任の親切なる批評あり、終つて御茶に御菓子が出る、御互に自慢話や失敗談に花を咲かし、餘興として、氏原君の薩摩琵琶、住田君のハーモニカ、加藤君の象の眞似事あり、夕頃散會す。
十五日、順送畫帖發行。繪畫十五葉、記事は寫生會及び例會の記、名匠教訓其他二三あり。
三十日、靜物寫生會。午前九時より淺野主任の宅に開く、出席者十餘名、モデルは椿、野菜、等三種あり。スケツチブツクに、こつこつと寫生してる人もあれば四ツ切を、かつぎ出して、うんうん云つてる者もある。午後四時散す。以上
因に當地方の熱心なる同好者は、御入會下され度規定御入用の御方は、二錢郵券封入、小生迄御申越し下され度候。草々(大阪市西區西長堀南通五丁目★菱社宅乙部笑波)