問に答ふ


『みづゑ』第四十九
明治42年4月3日

■イースト氏寫生談中に毎朝三十分間づゝ空の寫生をせよとあり、これは色にて描きてよきや、また空のみ寫すにや、他物も寫すにや(GO生)◎色にて可なり、山とか森とか空の調子を寫すに必要のものは共に描き入れて置く方がよからんが空ばかりでも稽古になるべし■一 美術家小傳の定價内容、二 油繪は水彩の技を修めて然る後描くべきものにや、三 水彩又は鉛筆にて夜間靜物寫生をなすの利害、四 黒繪の研究には木炭鉛筆何れが利なるや、五 大橋先生は現今尚通信教授をなされつゝありゃ(元山霜夜)◎一 日本の物故せし洋畫家のみの傳を集む、實費送料共二十二錢、二水彩は油繪の下畫にあらず、水彩の出來る人で油繪に巧ならざる人あると同じく、油繪畫家にて水彩の殆ど畫けぬ人もあり。往昔は水彩といふと、油繪畫家の慰み位ひに過ぎざりしが、現今では其特別の趣味を認められて、油繪とは獨立して發達しつゝあり、三 何れも夜間靜物寫生差支なし、正しき輪廓と濃淡を研究するには晝間よりも却て夜間の方まされり、但普通の燈火にては水彩にて充分の色を出しがたし、宜しく一色畫を試みられよ、四 稽古として木炭の方便利多けれど、整頓せる研究所に於てするか、又は教師を有すればよけれど、然らざれば鉛筆の方がよからん、五 今も猶懇請さるれば教授さるゝならん■一美術家小傳、水彩畫階梯、水彩風景畫帖の定價及發行所及其部數、二 洋畫界の機關的新聞ありや(山形俊郎)◎一 賣價は前問の答を見よ、是は美術同志會の紀念發行にして賣品にあらず、本會にて好意的取次をなすなり、次に水彩畫階梯は新しきものなし、古本(表紙の銀色變ぜしものにて賣捌店よりの戻り品)一部送料共三十四錢にて本會にて取次すべし、又、水彩風景畫帖は第一集(二枚)のみにて、本會發行一部送料共三十錢なり、二 なし■ヌーボー式とは如何なる者か、二 フレスコとはどんな畫か、三洋風圖案の適當なる著書なきか(小蝶子)◎一 アールヌーボーとは新美術といふ意味にて、十年前に歐米に大に流行せし模樣にして、多く太き曲線より成る、二十五六世紀頃伊太利に於て盛んに用ひられる壁畫を指す、三 洋風としては吾國に出版されしものあるを聞かず、舶來品は或は丸善書店にあらん■山岳の發行日は何日か(緑葉生)◎毎年三回なり■日本水彩畫會の規則によると、講習の爲め先生方の出張を願へるやうなり、就而は報酬其他の費用等承り度、又遠隔の地にても出張を願へ得べきや(熱望生)◎詳細案を具して申込まれれし、若し其動機が、水彩畫修業といふ熱心に出しものなら、報酬は別に望まず、費用としては、滞在及往復旅費を請求すべし、旦差支なき限りは遠方にても出張すべし■ニユトン製のセピア、古くなり練返しても沈澱して使用不便なり、いかにせばよろしきや(和知忠恒)◎練り方が不充分ならんと思ふ、但あまりに古きものはよき發色を得がたかるべし■一 透視畫法の書物及其發賣所、二 雨の空に用ふる重なる彩料、三風景畫帖第二集の發行は如何(天童町佐藤生)◎一 井汲氏著用器畫画法第三、日本橋金港堂、送料共金三十八錢、二 時により同じからず、可成實地に就いて研究されたし、多くの人はニユー卜ラルチント、インデゴーの類にライトレツドなど交へ用ふ、三未定■本年の夏期講習會場は何處なりや(關西希望生)◎未定なれど、今一度關西にて催したく思ふ、希望の場處御申越あれ、是は君のみならず一般の讀者に望む■白布の蔭の色は如何にすべきや(松村實正)◎布の質と其時の光線とによつて同じからず、多くはオルトラマリンに少許のライトレツドな加へれる鼠か用ふ■イ美術新書、ロ洋畫手引草、ハ油繪山水訣、ニ繪事三要、ホ畫法自在上欄西畫鑑賞法、へ水繪具誌等の發賣所及、其他洋畫に關する品物を知りたし(山城猪嫁兒)◎イに絶版、ロは本郷切通坂町畫報肚、ハは絶版、ニは同樣ホは博文館發行(二十鑓)ヘは文房堂にありしも今は知らず、何れも六七年のものにて定價等不明なり、他の出版物としては、岩村氏の藝苑雜稿(九十錢)畫報社にありこれはよき書物なり■最も完全なる繪具箱は何處の發賣にして何程なりや(周子)英國製のもの概してよし、和製には完全のものなし■尾瀬沼號殘本ありや(山口とし子)◎あり

この記事をPDFで見る