水彩畫の筆(その二)


『みづゑ』第五十 P.9
明治42年5月3日

 筆の毛の軟かいのはいけぬ、水をつけて尖きを曲て見て元の通り跳返る程のがよい、尤も軟かいのを好む人もあり、又寫すべき繪の調子に依て必要の時もあるが、多くの場合には少し力のある筆の方がよい。
 日本畫を描く筆でも充分使用に耐へるのがある、夏毛で一寸程の穗の長さのあるのがよい、普通の水筆、眞書き方も水彩筆の得られない時は代用することが出來る。
 廣い部分を塗る時に刷毛を用ひる人があるが、和製の毛の簿いのでは結果が面白くない、舶來か若くは舶來同樣の毛の厚味のあるのでなくてはいけぬ、太い筆さへあれば刷毛はなくとも濟む、刷毛はあまり用ひぬ方がよいであらう。
 海綿筆は輪廓の硬いのをボカしたり、又は暗い處の一部を洗ひ取るのに用ひられるが、これは大きなのに不必要である、海綿を適宜に剪刀で切つて、糸で括り、古筆の軸に押込めはそれでよいので、誰れでも手製で出來る。(つゞく)

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