寄書 最新の印象

吉田興三
『みづゑ』第五十
明治42年5月3日

△現今の繪畫には田園の聲が多い。自然の聲が多い。その割合に都會の聲が少い。人間の聲が少い。私はもつと都會を觀察して貰ひたい。人の心裡を深く描いて貰ひたいものた。
△人の心裡を表面に描き出す事は必ず容易な事ではなかろう。私は、自分に何事かを思ひ感じたその刹那の表情態度を鏡にうつして微細なる研究をして貰ひたい。そこに大なる主觀のほのめきをみとめらるゝのだ。やがて繪畫即人生となるのだ。
△將來の繪畫は技巧では飽たらない。態度なんだ。
△私は文人畫を好む、その鋭い印象的の筆致を好む。その省略に對する態度の優れたるのを好む。然れども獨創にあらずそれを眞似た主觀のあやふやなのを嫌ふ。
△自然をたゞ平面的に描くのは余程氣をつけないと平凡に落ち入り易い。平面の裏面に主觀のほのめきが無けりや駄目だ。余はつくづく主觀の必要をみとめる。

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