浮田和民『國民としての成功』


『みづゑ』第五十一
明治42年6月3日

 美術は惡く言ふと國民的娯樂に過ぎぬものであるが、唯だ娯樂としても非常に國民の性格上に重要なるものである。人間は働くか休むか、勞働するか娯樂するか、二者その一に居らねばならぬ。斯う云ふ譯であるから、勞働ばかりしてゐるとどうしても耐えられないものである、樂しみといふことが必要である、其娯樂に美術的趣味を加昧すうと高尚なものになるが、美術的趣味がないと野蠻になる、其結果は國民の墮落となり、或は國家の減亡を來すことになる。穏健にして規則正しき娯樂、殊に美術の娯樂を國民に與ふることは、國民として殊に缺くべからざるものである。今後文明の事業は益々發展しなければならぬ――其活動に堪へるやうに、國民を健全に發達せしむるには日本人の特徴である處の美術思想を養成して往かなければならぬと思ふ。(浮田和民氏『國民としての成功』日本及日本人)

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