イースト氏寫眞談について
『みづゑ』第五十一
明治42年6月3日
先般來石川欽一郎氏が本誌に掲出せるイースト氏寫生談は、倫敦カツセル會社出版アルフレツド、イースト氏著油畫風景畫法より摘譯せるものなり、同書は版權登録に係はるもの故、本會も一應著者の認諾を求め置かん爲め、過般石川氏より左の意味の書面をイースト氏に宛て発送せり
拜啓自分儀は泰西の水彩畫術を專問に研究するを以て目的と せる日本水彩畫會の一員に有之候本會より「みづゑ」と稱す る雜誌を刊行して會員に配布致居り候貴下の御著書ランドス ケープ、ペインチング、イン、オイル、カラース、は美術研 究者にとり一大寳典とも申すべく依て其中より水彩畫學生に 有益なる部分を摘譯して「みづゑ」誌上に掲載致居候間此儀 御承知の上何卒御認諾の程願上度御差支なき事を希望致候貴 下の御講義は美術に携はる者に大なる利益深き興味を與ふる ものに御座候
「みづゑ」兩三册御左右に呈し候日本語にて印刷致しあり候へ ども御一覧を得ば大幸に御座候
時々御高説等も伺はれ候へば我邦美術界の幸福之に過ぐるも のなく候
此機會に於て本會を代表し至高なる敬意を貴下に呈し候
千九百〇八年十二月二十九日
日本水彩畫會 石川欽一郎
英國倫敦
アルフレツド、イースト殿
之に對しイースト氏より左の如き意味の返書あり
拜復西班牙地方の族行を終へて歸國候處十二月二十九日附の 御書面並に雜誌到著致居り難有拜見仕候
自分一已より申し候へば著書中より御隨意に御譯出相成り一 向に差支へ無之候へどもカツセル會社が版權所有者に有之尤 も右版權は日本までは効力を及ぼさずとは存じ候へども一應 同社の承諾を得るに如かずと存じ候
著書が貴望に叶ひ候は自分の喜ぶ處に御座候
貴下並に御會の爲め何なりとも喜んで御助力申上べく候
千九百〇九年三月十八日
倫敦ヴイクトリヤ街スペンサー街二番
官設英國美術家協會々頭
アルフレツド、イースト
日本水彩畫會
石川欽一郎殿
尚右返書と同封にてカツセル會社よりイースト氏に宛てたる書状あり左に譯出すべし
拜復貴翰並に日本紳士よりの依頼書正に落手仕候右は版權規 則には違ひ候へども斯道の爲にも有之候故貴著ランドスケ ープ、ペインチング、イン、オイル、カラースより隨意譯出 せられて少しも異存無之元より進んで承諾申上候次第に御座 候然れども商買上より申せば之に一の條件を附するを至當と 存じ候即ち右日本紳士は目に付き易き處にカツセル會社出版 ロイヤル、アカデミー準員アルフレツド、イースト著ランド スケープ、ペインチング、イン、オイル、カラースより摘譯 せる旨を記載し且其雜誌中に日本に於ける本書賣捌店を掲出 すべきことに御座候右賣捌店名は封入仕候
右御同意を得度候
今回の御族行は定めて御愉快に且つ御成功と存上候暖かき西 班牙より御歸京後寒氣御自愛奉祈候
千九百〇九年三月十七日
カツセル會社美術部支配人
スコツトソン、クラーク
ロイヤル、アカデミー準員
アルフレツド、イースト殿
再伸
右賣捌店名は全部掲載するの必要は無論無之其中の二三店を 示せばよろしく候
此賣捌店名の表は封入し來らず、尤も東京にては丸善中西屋等より得らるべく、其他横濱神戸邊りの外國書籍店にもあるべし
一部六圓二十五錢