ノースコート畫談


『みづゑ』第五十二 P.2
明治42年7月3日

 畫といふものは兎角同じになりたがる。一種の型が出來たがるものだ。此型を崩すには寫生をやるよりほかに善い道はない。寫生をやめるとヂキに型に這入つて仕舞ふ。書生時代には形を誤らず綿密叮嚀に畫くことを勉強せにやいかん。これを措いては上達する見込はない。少し粗大な描き方は老年の結果か、又た非常に熟練して、例へばヴエラスケスの樣に、觀る物の要點を、甘く握る事の出來る樣になつてからは別の事故ざと粗大に描いてはいかん。筆の粗大と云ふものは、必要に迫られて、自然と現はれて來るもので、決して好でやるといふものじやない。(ノースコート畫談)

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