講習會出席の方へ
『みづゑ』第五十二
明治42年7月3日
△夏期講習會出席の御方は、なるべく開會第一日より出席せられたし、第一日には講習中の心得及び講話の順序等御話する筈なり。
△實習用の寫生道具は用意を充分にせられたし、繪具の數の不足、硬く涸れて筆先にて溶けぬもの、粗惡の品にて眞の發色の得難きもの、筆の先の棒の如くなれる、又はヘナヘナにて彈力なきもの、是等は皆寫生の功果を損ふこと大なり
△用具不完全なれば結果惡しく、結果惡しき時は愉快に研究すること難し、繪具や筆の價は些細のもの故、初め求むる時少しく奮發されたし。
△水彩畫の紙にワツトマンが一番よろし、九ツ切位ひの大さにて、會期中勉強すれば二十四五枚は出來るべし、即ち全紙三枚を用意すれば餘りあり、若し畫學紙を用ふるなら、厚きものを撰ばれたし、水彩畫紙といふものは、繪具が紙の目に溜つて稽古用に便ならず、木炭用紙は全然不可なり。
△紙は必ず水貼にすべし、留鋲などで四隅を止めたものは、講師に於て補正の筆を執らぬことあるべし。
△繪具屋に、會期中一二回、開會地迄出張させる筈故、地方より來らるゝ方は澤山用意するに及はず、また出席者にして、送料を添へて本會へ御申越になれば、文房堂の割引切符を送るべし。
△出席者にして、是迄寫生せし繪畫を携帯せらるゝ方あらば、講師に於て批評の勞を辭せず、會揚へ携帯さるゝ方よからん。
△婦人の出席者にして、指定の宿舎に入る方には別室を用意し置くべし。
△指定の宿舎丸屋以外、鎌倉には澤山の旅店あれど、關東有數の遊覽地避暑地にして、夏期は多數の客あり、宿料等も非常に高價なれば豫め注意し置かれたし。
△指定の宿舎にては、一室一人とか、特別の賄とかいふやうな取扱は一切謝絶する故、多人數共同の生活を望まぬ方は、自ら他に宿所を求められたし。
△當講習出席の方にして問合を要する事は、なるべく本月十日以前に御申出ありたく十日以後には講師兩氏は旅行致さるゝ筈故、講習に關する御質問等は自然御返事遅延すべし。
△別項規定注意書の末項「講習生は八月二十日會場に參集すべし」とある二十日は二日の誤り