問に答ふ
『みづゑ』第五十二
明治42年7月3日
■一 パレツトの塗りの剥かれたるは素人にて塗り直しの出來ぬものにや■二繪を立てかけて寫生する時腕枕を用ゐるも細部を滿足に描けず如何にしてよきや■三繪畫に散漫との評を受くること多し如何にせば散漫を避け得べきや(常陸の人)◎一 エナメルにて塗りよく乾きて後ち細かきヤスリ紙にて磨ればよしといふ、但し編者の實驗にあらず二戸外寫生の際に腕枕など用ひる必要なし、そんなに細かく畫くものでなし、室内にて人物肖像など描く際はこれを用ふることあり腕枕を用ひても描けぬ程の細部は西洋畫を描く上に省略して可なり。但如何なる細き線でも點でも腕枕を用ひて畫けぬといふものあらざれは、恐らく腕枕の使用法の誤りか三 繪には必ず主眼とすべき處ある筈なり、而して其主眼以外に主眼よりも人の目を惹くやうな色彩がある時は、散漫となりて統一せぬなり、假令ば、こゝに神社あり、後ろに森あり、横に手洗所ありとして、此處を寫生する時、神社を主として畫くのなら他のものは背景なり、然るに神社以外の手洗所も、神社と同樣の強さを以て畫く時は、一國に二人の王あろ如く、統一を失ふなり、況んや背後の森の幹を黒々と畫いたり、横合から強い色の枝を出したり、畫面の隅に鮮やかな色の人物か畫いたりすると何れが畫の主眼だか分らぬことになり、即ち圖樣が散漫となるなり、故に神社なら神社を中心として、他のものはそれに比較して弱く畫くので、これは故らに弱くするのではなく、實際主とするものを見て首を廻すことなく他の物を見ればポンヤリ見ゆる筈なり、その心持で畫けは自然散漫の弊より脱し得べきなり■婦人にして夏期講習會へ出席すろことを得べきや(桂花女)◎差支なし■一 墨繪の素養なきものにても講習會へ出席し得べきや二 館山北條附近は要塞地なりや三要塞地寫生願書は提出後何日目位ひに許可さるゝにや四 日本水彩畫會々友は現在何名程なりや五 シコーといふものカンボーヂの代用として可なりや(自然兒)◎一差支なし程度に應じて各別に教授さるべし二 要塞地帯にあらず三 日限に一定せず又許可されぬ場合もあり四現在百十名程なり五 雌黄は代用し得べし廉價なるチユープ入のものに優ること萬々■會友なれば直接諸先生に肉筆畫の揮毫を依頼し得べきや(茨城好畫人)◎會友にあらずとも本會へ御申越あらば取扱ふべし■『みづゑ』の缺本は何號なりや又割引の程度を知りたし(初學者)◎第一より十三迄十五、十七、十九、二十、二十九は缺本他の殘本三十八迄は十册以上の注文に限り一部送料共十錢の割にて御求めに應ずべし■私は直接讀者ではないが投書して宜しきや(北海道野坂生)◎差支なし