寄書 一八の花
山上霞峯
『みづゑ』第五十三
明治42年8月3日
小雨降る日! 川合通ひのがた馬車の通る齋藤分の町はずれ、雨に濡れしの色の美しきを九ッ切にスケッチし初める、近所に泥いたづらをし居た小供等が直く集つてくる、肥料車を引いた田舎の人迄も車をとめて見る(是は・・・・・・なんですか皆!!!輸出になるのですか)と突然問ひ懸ける人が有る、自分に今面自い馬が出來た時故唯(いゝへ)と答う(ヘエ内地でも賣れますかね)と又煩さく問ひかける、自分は初めて振返つて見ると四十位な商人體な人だ(僕は賣りやあません)と輸出畫に見られたり賣り畫と見られた腹いせにそつけなく答へると、其人も氣まりが悪るくなつたと見へていつか居なくなつた、雨はいつしか止んで、初夏の暖い光りが雲間から洩れて彼方の草家の家根の上に咲いて居る一八の花の色が冴へた。