そめこ集(出雲崎)


『みづゑ』第五十五
明治42年10月3日

■『水彩畫夏期講習場』この立札を學校の門に見た時はいよ?明日からとゾク?した■戸外寫生は振つたものだね見給へ一生懸命だ■三脚代用とあつて油紙を敷いてゐるのは奇抜だらう
■澁紙もあるよ、■跣足になつて下駄に腰かけてゐるのもあるさ■下駄や石はマダよいよ思ひ切つたのは地面の上ヘドツカと座つてゐる■一つの繪具箱を二人で使つてゐるね■筆洗の二人共用もあるさ■大阪製のチユーブ入を一々押出しては筆の先へつけゐる氣の永い人もある■多分日の永い國で生れたのだらう
■パレツトなしで立派な繪を描き上る技兩は實に感心だらう■繪具の話をきいて見ると僕等の持つてゐるのは皆ダメだ■實は僕もモット繪が旨いのだが繪具が悪いからね■中には雌黄のつもりで染彩を使つて繪を眞黄色にして仕舞つた人も居た■其人のパレツトも眞黄色だつた■草鞋ばきて毎日通つて來る熱心家も居たね■何でも二里からあるとの事だ■大きな根つけの着いた昔風の煙草入を腰に下けてむる人も居たね■自製三脚の圓い樫の棒を太鼓の撥と間違られてアナタは役者かねときかれた人も居る■あまり優さ男でもないのにね■役者らしい髪の毛をわけたハイカラさんもあつたよ■三角堂は不思議なものだ、何でも三角家根から天井から畳迄三角だ■ナゼ窓も三角にしなかつたのだらう■兎に角こゝの主人はヒネクレものだね■腐さつたり干枯びた梨も出來たが紙製の南瓜もあつた■ブリキ製の書物もあつたさ■茶話會の餘與を一人で引受けた勇士があつたが遠慮深い人が多かつたので振はなかつたね■クロモチ、シロモチの合戦はよかつた■シ、メ?と申けりとは何かわ■進め?と申けりさわからない男だな(完)

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