肖像畫家について（岩村氏譯、ノースコート畫談の一節）

　肖像畫家で成功しやうと云ふには、唯だ畫が描けると云ふ許りではいかん、種々と不利な境遇、妨害の間に甘く描くといふのでなくてはいかん。と云ふのは、肖像に座る人で、畫かきの便宜を考へ、此方を助けるやうにやつて呉れる人は、實に稀である、大概は、唯だ自分獨りの樂許り考へ、畫かきの苦心は★しも察せず、勝手氣儘に擧動のが通例である。それに又た、客の友人などがやつて來て、此方の折角乗氣になつた心持を、全で毀して仕舞ふーー結局出來得る丈の方法で畫かきの邪魔をする。斯云ふ風であるから肖像畫家の上手といふ人は、唯だ畫が甘いといふ許りではいかん、種々の妨害の間に、甘く描けるといふ人でなければならん(岩村氏譯、ノースコート畫談の一節)