圖按について(丸山晩霞氏『女性と趣味』の一節)
『みづゑ』第五十七
明治42年12月3日
理論は尚言説すべきもの多けれども一時以上にて稿を終り次回より模様に付ての具體的説明に入る。
圖按も繪畫と等しく、日本には日本の特色ありて、その特色に向つて發展して行くのである。故に、よしや西洋畫法を以て描くとも、西洋風に改める等は全然不可能の事で、吾が島帝國の美なる山川のある間は、日本の特色は存在して居るのである。今や時代思潮に浮ぶ船に、美術ばかりが乗らぬ譯にはゆかない、西洋畫法の寫生に伴ふ自然研究より圖案の材を選み、日本特長の趣味をずんずん向上さすべきである。
今繪畫の歴史に溯って、古代の繪畫を窺へば、皆摸様畫である、今日も尚存在せるエヂプトの繪畫は直線的摸様である、畢竟寫實の術を知らざる時代にあつては、眼に映じたるものを想像して描いたのである、その感は各自同じからず、これがやがて抽象的なる摸様となつて現はるゝのである。(丸山晩霞氏『女性と趣昧』の一節)