青年畫家について(岩村氏譯、ノースコート畫談の一節)


『みづゑ』第五十七
明治42年12月3日

△一代に秀た畫家は、青年畫家に、己れの得た経験を傳へることを吝んではならん、時によつては、己の作も貸興へて摸寫をさせる位の事も、してやらねばならん。出來得る丈學生の誤謬を正し、可成上達する様に導くのは、先達の義務である。技藝が繼續させる丈の價値のあるものたる以上は、我々が、我々の先進者から得た經験を、後進に傳へねばならん。
△若い畫かき連が、よく自分の許へ製作を持つて來るが、自分は、義務と思つて、いつも製作を見てやり、又た借りたいと云ふ畫、刷物などある場合には、努めて貸てやる。又た批評と勤告は、正直思ふ通りを云つてやるが、之は時によつては、決して愉快な話でない、時には胸の惡くなる様な惡作を持て來る。
 一體畫かきにとつては、惡作を見ると云ふ事は甚だ危険な事であつて、自分も惡作を見てはならぬと云ふ事は、能く承知してゐる、又た實際其惡處が身に傳染る様な心持がして、實に劒呑でならぬが、併し青年畫家を助るには、自分を幾分か不利の處へ置いても、してやらねばならん。之は我々の義務であるし、又た世間もこれしきの事は、我々のすべき義務と思ふて居る。
 我々は我々が先人から受けたと同様、矢張彼等にもせねばならん。(岩村氏譯、ノースコート畫談の一筋)

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