植物[下]

夢鴎生
『みづゑ』第五十七
明治42年12月3日

○葉群が吾々から遠くなるに伴れで、塵の如く細かく見えて來て、遂には吾人と空との間に點と線との纒綿したものと見える様になる。されば海岸の砂を描くことは、これを樹葉を描くにも用ひ得られる。
○葉群は外方よりも幹に近い方が餘計に錯雑して見えるが透明である。その内に碎けた光が見えるのは、空がすきて見えるのである。上部から來た日光は輝ける葉片の上をすべりて消え去り、更に再び莖又は根の上に照り初める。
○上方の枝の蔭影に幹に綱目の様にうつる、そして次ぎに縞の様に地上にうつる。
○樹木が充分生育した時は枝が分岐する。其の分岐するときは、行く行く小枝を分出しても、或る長さまでには伸びることが出來るだけの木質を幹から受取つて出かける。若し過つて少しほか取らないで分かれた枝は、或る長さに成長する迄は小枝を分出しない。若しこれと反對に、多く取り過ぎた場合にに幹から分かれるや直に小枝を出し初める。
○ダヴイツト、コツクス氏の葉も其色と涼しさの感と蔭と葉群とつき秀でてゐる、海岸の松などでは、海風の爲めに幹が屈けられて陸の方べ曲がる、すると平均をとる爲めに海の方へ向けて枝を出す。
○葉の生じ方に、對生とか互生とか種々ある。
 よく、枝を見ると葉の基脚の所に小さい凸起物がある、これは幼芽であつて、幹と葉柄との間に出來てゐる凹所の爲めに保護されてある。幼芽はかく保護されてゐるが、これも夏季中だけであつて秋季になると保護者たるべき葉は落ちてしまふ、されば幼芽は冬の苦を凌きつゝ來る春の發芽の用意をするのである。
 芽の發生する位置に種々ある、これは葉に就きて研究するに必要のものなれは一と通りしらべ置く必要がある。
○葉に關して左の如き法則がある
 1、偏向の法則、復葉などて葉柄の其の方にある葉は、頂端の方にある葉の向へる方向と反對の向きになることである。
 即ちAとならなくてBとなる
 

 2、發芽の順序
 芽の位置を研究すると判然する事であるが、凡ての木は枝條の末端から見ると葉が輪状か、螺旋状かに展がりて星座をなす、却ち樫では五葉の集團と見え、桃では四葉、石南屬ては六葉である、されど樫、石南屬では各葉片は其高さを異にしてゐる、枝條の頂端にある葉ば一番遅く出るのであるから形が最小さいのが普通である。
 3、後屈の法則
 胡桃は十字形に葉が出でゐるのであるが、時とすると二方にのみある様に見えることがある、これは上方にある一對の葉が後ろにまきこんで仕舞からである、そして下方仁あち葉の成長を防げぬ爲めの用心である。
○如何な長さの枝でも嫩は芽の所を除いては眞直になつて居るものは無い、これは葉群が營養及光線を求むる爲に或る方向を取らんとするから、枝も葉の欲する位置に支へんとして曲がるのである、そして、曲がる作用は一は葉が適當の場所を得んとする葉自易の活動より起るものと、一は枝に葉が着生し繁茂しその重量によりて起るものと二つである、街此外に地方風の爲には技も葉も其外幹でも曲げらるゝことが多い。
 葉群の重量は大きな枝にかかる、故に時とすると、重い方の枝が下方に傾いてしまつて、他の一方の枝がよく繁茂することがある、これはハルデイング氏の好んだ樹の型である。
 完全な樹木の形式は恰も★か又は花揶菜形である、併し實際には、地上からも芽生があるから下方の空間を枝で埋めてしまつて★の如く見えぬ場合も多い。(完)

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