寄書 つたなき經驗
△生
『みづゑ』第五十七
明治42年12月3日
△水貼をするのに、海綿で擦るのは慣れないと紙面を損傷する、水の中に漬るのが一番安全の様に思ふ。
△水貼のプロツクの事が「みづゑ』册四號に載つて居たので行つて見たら好成蹟、然し水を切つて置かぬと最下の緑貼紙の糊が利かなくなる。
△雲を畫くのに餘り洗ふと光澤が無くなるので、極淡い色を重ねて行つたら、線が淡く一寸うまく出來た、但し例外は有り。
△細い幹も不細工だが、太くて木の葉が小さくなつて居るのも變である。
△木の葉を點で畫くのに、點と點との間を少しあけて置いて重ねて行くと、後で面白く見える。
△輪廓を取るのに、一つ一つ濃淡色彩迄畫くのは、後で繪具を塗り始めると少しもわからなくなる。
△樹木の陰は暗いものだと思つて無やみに塗ると深味が無くなつた。
水貼のとき海綿で輕く磨ることは時して必要なり紙によりては繪具を弾くものあれば(編者)