問に答ふ


『みづゑ』第五十七
明治42年12月3日

■一繪畫を專門的に研究するには必ず塁繪のみを充分研究する必要ありや、其年限は約何年位なるか、又時には他の繪を畫くも妨げにはならずや二繪の堅くなるのを直す法如何三風景の寫生に地平線を畫面外に出だすも搆圖上に害なきや四繪具をパレットにて溶解せずして小部分へ強く塗るも差支へ無きか五日本水彩畫會研究所地方講習生は爲すべき物品及び繪の種類を指定せらるゝにや六小生の如き初學の者にても日本水彩畫會研究所へ入り得る資格ありや七汚なきものを奇麗に畫くのと、汚なきものを汚なく畫くのと何方が可なるや八太平洋畫會及び白馬會とは如何なるものにや、其目的主義を知りたし(清想)◎一初あに墨繪の研究を爲さねば、繪畫の根本たる輪廓及濃淡の調子を覺えることが出來ぬ、墨繪の研究即ちデツサンが不充分でに大作を出すことが出來ぬ、年限は其人の天分と勉強とによれど、通例毎日研究所に通つて二三年は木炭を掴まねばならぬ次に、其間に彩色畫を畫くことは妨にはならぬ二描法にもよる、淡き繪具を幾度も重ねて畫くか、又は畫面は洗へばよいが、固い繪が必ずしも悪いのではない、これ等のことは澤山寫生して自得するより他に方法はない三差支なし四差支なし五別に指定せず六如何なる初學者にても可なり七有の儘にしゃ生すべし、但汚なきものに美的感興は起らぬ筈ならん、汚なきものを殊更に主眼として繪にする場合なし八何れも會員組織にして別に會頭といふものなし、西洋畫の進歩發達を目的とする同好者の研究の會合なり■一寫生の時畫架を用ひると彩料が流れて調子が狂ふて來る、畫架は用ひぬ方がよきや二着色の當時濕れてゐる時と後と結果が違ふが繪具の下等なるが故にや、またある種類のみ上等繪具を用ひたらよいか(峯嶺)◎畫架は必ず用ふべきものにして、畫架なれば箱にても可、要するに六十度位ひの角度に畫板を立てゝ畫がくがよきなり、但極小なるものは膝の上で平面に置ても差支なし二五銭のチューブは日本製にしてシカモ舶來と號するゴマカシものなり、中てインジゴ位ひは使用に耐ふべし、森親子商會輸入のニユートン學生用の方幾分かましならん、併しどの繪具でも濡れてゐる時と乾いて後とは多少の相違を生ずるは免れず■一畫用人形の賣店及價格二中繪及寫眞坂としての募集畫の大さ及宛所三爲眞版としてチョーク畫は採用せずや(北海の虫)◎一神田小川町熊野屋に小形のものありしが價格未詳二中繪は三色以内にて大さハガキ大、寫眞版は制限なし、但寫眞として送らるゝ方便利なり三よき繪なら種類を問はず、宛所は本會■ローヤルアカデミー畫集は年何回發行なりや(愛讀者)◎繪入略目録は毎年五月開會當時に發行し、精巧なるものは分冊にて四五回發行さるべし、合本となりしもの毎年丸善書店に舶來しあり■藝用筋肉解剖書の發行所及定價を知りれし(森本利三)◎本郷區湯島切通坂上畫報社に藝用解剖學あり、神田表神保町中西屋に美術家用の解剖書あり、何れも定價未詳■ニユーマン製のヴアミリオン粗くして因ります使用法惡しき故にや、オレンヂヴアミリオンならばよきや(長谷川生)◎繪具の性質にて使用法惡しき爲めににあらざるべし、オレンヂヴアミリオンは幾分か可ならん、硝子の上に取出して練直して見たまへ■一ブラツシとに何か二初學者に必要なる舶來の鉛筆又に水彩臨本三夜景の緑色は何を混じて可なりや四ワットマン九つ切のタチ方五水貼の時紙か脹れるが暫時すると平面になるこれで可なりや六水貼のフチに貼る紙の幅に何分位ひが適當にや七日本水彩畫會研究所現在の生徒に何名程ありや(關西畫狂生)◎筆といふこと筆目といふ意味にも用ふ二日本橋區通三丁目丸善書店並びに麻布飯倉町大日本繪畫講習會に多數舶來せり目録を取よせ見られたし三其緑の本然の色により一様ならず、夜といふても季節の關係もあり晴曇の關係もあり、かゝることは到底説明しがたし、宜しくパレツトの上で自分で研究すべきもの四三つにおり更に横に三つにたつなり五差支なし六凡そ三分から五分位迄七現在通學者六十餘名■一木の葉又は草の色に小生はコバルト、レモンヱロー少量のピンクマダーを加へそれにて畫けど悪しきや二油繪にて刷毛の工合で横より見ると光り方の異ふことあり差支なきや三油繪にて人の顔の色に何と何とを混ヒて可なりや四コロタイプ又はアートタイプ刷を見て自分で色を想像して畫くことは進歩の助となるや五大下先生の紫色は何と何とにて成るや(柏木俊一)◎一君の調合にある場合には差支なけれど凡ての緑に應用に出來ぬ、線の説明に本欄の許す處でない、宜しく『水彩畫階梯』又は『最新水彩畫法』を見られよ二正面から見るべきもの故差支なからん三是も一の答と同様なり、到底せまき誌面にて満足の答は出來ぬ、油繪畫法又は洋畫講義録にても見られよ四有害なり、かゝる暇に静物寫生でも試みたまへ五紫にも種類ありて一様ならず、却て讀者を誤るべければ答へがたし但、蔭に多く用ひる暗紫色にウルトラマリンとインジアンレツドを混ず■みどり洋畫會は如何なりしや、雑誌は發行してゐるにや(自然子)◎主幹北山氏入營後雑誌の發行に中止されたり、會の所在不明■一繪具を幾度も重ねてゆくと繪にムラが出來て困るが如何なる理由にや二『みづゑ』見本は何程にや、また三十號以前のものには號數を指定し得ぺきや三インヂアンヱロー。
 オルトラマリン。ニユートラルチント等の用途を知りたし四初學者は一枚の繪に幾日位かゝるものにや(和多田てる子)◎ムラの出來るのは下塗の惡しきか未だ乾かぬうちに重ぬる故ならん、時としてムラの出來た方が面白き場合もあり二十銭、指定に應ぜず三インヂアンヱローは強き力ある黄にして、重に前景の緑に、又は夕方の空などに、オルトラマリンは空及水、またに綠の一部に、多くは蔭影の鼠色を作る混合物として有効。ニユートラルチントは、空、前景の蔭の部分などに用ひられるが、多く使用すると繪が重くなるおそれあり四其繪の大きさによれどワツトマン八ツ切なら二日か三日通ふたら出來るならん、時間にして六時間程、五には答へがたし■一繪畫製作の上に偶然の効果を頼むは愚と云ふ、然らば大家は何故に名作許り出來ざるか二研究の痕なき作と有る畫との鑑 別は如何にしてなすか三懸腕にて輪廓をとる時は手が震へて困る、練習すれば小部分迄描くことが出來得るや(水彩入道)◎一繪の製作は大工が家を作り左官が壁を塗るやうな者でなく、必然かく成るべしと思ひても成らぬことあり、これ大家にも劣作ある所以、然し素養なきものが冒険的に偶々成効したのは、恰も投機と同じく眞面目なる繪畫の上に應用すべきものでない、要するに偶然といふ字を狡義に解せば何事も偶然ならぬはなし二畫面に注意の届いてゐると否とによつて見るべく、これも程度問題で経験によって批判すべきもの三小部分は勿論大部分でも輪廓をとるに懸腕にてなすに及ぼず■今年の文部省展覽曾にての授賞畫の大さを知のたし(緑葉)◎一々擧げがたし『おもひで』の如きは六尺に一丈もあらん、水彩畫にはワツトマン四ッ切位ひのもありたり■一『みづゑ』の口繪『モデル』『少女』『朝なぎ』『京都郊外』『深山の秋』等は模寫してよろしきや二右等の繪に用ひられし色彩の順序は如何三研究所別科土曜日の記名料授業料は何程にて誰でも入學し得るにや四『みづゑ』に『スタデー』と題する樹木の繪のありし號は何號なりや、また残本ありや五ローカルカラー。プラツシ。タツチ。エフクトとは何の事か(日本橋和輝生)◎一『少女』は印刷の工合にて不出來なるもの混れり、他は差支なからん二製版後、色に幾分の相達を生ずべく説明しがたし三土曜日にあらず日曜日なり記名料壹圖、所費壹圓月次會々費拾銭何人でも入學を許す四第二十六にして残本あり五ローヵルカラーとは地方色といふことで其土地又は其物固有の色調感情などを云ふ、プラツシは前に答あり、タツチは重に繪の締りに用ひる、一番暗い處などに強い色がつけてある場合など、」エフエクトは感じ結果など種々譯語あり、六は答ふる限にあらず■洋畫講義録の發行所及川端畫學校の所在を知りたし(加藤松之助)◎前者は麻布區飯倉町四丁目、後者は小石川區上富坂町■一『みづゑ』直接讀者ですが誌上にて繪の質問をなし得べきや二『讀者の領分』へ投書し得るか三用紙はハガキにて可なりや(新讀生)◎一二、三、何れも差支なし

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