柑橘類、赤き實の美と小鳥(丸山晩霞氏『女性と趣味』の一節)
『みづゑ』第五十八 P.10
明治43年1月3日
柑橘の類は晩秋より冬を通じて黄熟し、色に乏しい冬にあつては、一と際眼立つもので、色の調子を得ないど不調和になり易いのである、されど最も冬期の色彩に缺乏せる寒地にありて見る事能はず、これ等は暖地の産故、之に件ふ他にも又必ず強き熟色のものがあるのであらうから、それ等ととり合はせたなら、面白い調和を得られると思ふ。
赤き實の美と小鳥
實として美なるものは、ツルモドキ、南天、ウメモドキ、ヤブカウジ、マンリヤウ、其他、これも多くは秋末に熟して、紅及び黄を呈し、花無き冬を飾るので、冬の花とも見るべく、畫とするには近くより見て描く可きものである。靜物として寫生するには、その色とよく調和したるものをとり合はすのである。小鳥が木の實草の實と深き關係を有して居るのは、猫昆虫の花に於ける如くてある、これ等は實地を観察してその何鳥なるかを注意して描くがよい。ツルモドキ茨の實にハヒタ、キ及びヅグミ等が、實を求食るために集まるのであるから、决してスゝメや鶯などを描いてはならぬ。
(丸山晩霞氏『女性と趣味』の一節)