御わび
大下藤次郎オオシタトウジロウ(1870-1911) 作者一覧へ
大下藤次郎
『みづゑ』第五十九
明治43年2月3日
十二月の末に、年賀状は一括して特別扱に托し、伊豆に旅行して歸つて來たのは一月の七日、翌朝、諸君からよせられた澤山の賀状を拜見してゆくうちに、まだこちらから差上ない分を區別して見たら、實に四五寸の高さに達した、確に三四百枚はありませう、その中には叮嚀な繪の書いてあるのも少なくはない、そしてその多くは未見の方であつて、多分本誌の愛讀者諸君と推察し、御厚意を深く感謝しました、それで、宿所の分つてゐる方へは、早遠に答禮を申上るつもりでゐたところ、留守中の雑務はある、來客はある、新年會だ、送別會だ、晩餐會だ、何の角のと事繁く、一日々々と延引してゐるうち匹、最早本誌二月號の編輯の時が來てしまいました、正月も半を過ぎた今日、年始状であるま、いと(實はあまり澤山で手のつけられぬので)、今年は此誌上で御わびを申上て置て、諸君に失禮いたす事にしました、あしからず御許容を願ひます、諸君の賜はりし御賀状は、永く保存して、御厚意はいつ迄も忘れませむ。
四十三年一月大下藤次郎敬白