問に答ふ


『みづゑ』第五十九
明治43年2月3日

■一遠景中景近景の松の描法二日出の時の曉雲及空は如何なる彩料にて畫くべきや三輪廓を大なる線にて描きたるものあり何描法といふにや四圖案と模様の區別五日本人の編著したるものにて挿繪多く初歩の者に適當なる書籍ありや(福岡、白羊)◎一松の描法を説く事に詳しく冒へば本誌一冊分も要すべし
 『最新水彩畫法』には描法及松についての講話あり就て見られよ、要するに松に限らず遠景はぼんやり、中景はやゝ判然と、近景にあるものは正しく明らかに畫くといふだけの事なり、時として遠景のものと雖も幹一本々々明らかに見ゆることもあらん、其儘明らかに現はして畫いてよけれど、かくすれば近景のものは松の葉一本々々畫かねば調子が合はず、それ故遠いものは極大タイの形と色とを見て畫く、漸く近づくに從つて判然と寫すべし、総じてかゝる問を出す前に、充分他人の作なる松の畫を見て自分も實地につき研究し其上如何にしても了解出來ぬ點を質問するやうにせられたし、自分の研究なしに漠然と問ふたのでは、タトへ滿足の答を得ても利益あらざるべく、結局不得要領に終るべし二前の問と同じ事にて春夏秋冬同じからず、又同季節にても多少の霧のある日、風のある日、雲もまた多き時と少なき時によつて其感じも違へ、ば、色も異なり、随つて檜具も同じからず、是も實地及他人の作で研究せられるより他に道なし三アールヌボーのことならん四志奈地氏の『圖案法概要』に「圖案は衣食住に關する總ての物品を製作する工藝品に適應するやう模様、形状、色彩を考按して趣味ある着想を表示したものである」といてふある、これで見ると模様は圖案に含まれてゐるものであつて、其一部と云ふてエいであらう五何の書の事なりや不明■一『みづゑ』三十號の『故郷の秋』は丸山先生何歳頃の作にや、また大さは如何二研究所に入り專門に研究するに十八歳にては遅きや三日本現代の風景畫家にて成功せし人は誰なりや四吉田藤尾女史は何人にや(榎本生)◎一三十五六歳頃、ワツトマン四切二年齢の早晩によらず勉強次第なり、可相成は中學校卒業後がよろし三程度問題なれどかゝる事は御答の限りでない四吉田博氏夫人なり■一木炭畫の研究は如何にしてよきや、若し石膏のモデルがよければそれは如何なるものを求むべきや二五十八號廣告にあるニユートン社の出版物は、英語の學力がどれ程あれば讃み得べきや(紫水)◎一木炭畫のことに『みづゑ』四十七及五十にあり就て晃られたし。石膏像は東京赤坂高樹町十五菊地氏宛目録を請求しその中から選ぜれよ、初學者に半肉ものゝ模様か草花などがよく、漸次胸像に及ぶべし、菊地氏へば本會の紹介也と申添たなら、定價よりも多少の割引あらん二全部見ない故不明なれど、編者の見たものはナシヨナルリーダー四位を讀み得れば、字引相手に困難なしに一通りは解し得べし、但かゝる專門の書物にはそれぞれ術語があれば、その點は文字以外の解釋を要す、べし■一古代器物に水彩の圖案に見るやうな模様あり何か經歴あることにや二普通の文學雑誌にコマ繪を投書するは別に害なきものにや三文部省美術展覧會洋畫部の畫集中最も精巧なるもの、發行所及定價を知りたし四尋常中學に於ける圖畫のみにて普通一通りになるべきか(津川淸造)◎一水彩の圖案といふ意味不明なり、西洋風一の圖案といふことにや、古代とはいつ頃を指すにや、元龜天正の頃は西欧との交通あり、其頃舶來せしもの或はそれを模せしものあらん、詳しく知らんとをらば静岡市鷹匠町三の十比奈地先生宛問合はされよ二懸賞を目的とし、或は選者の畫風に依り、これに熱心になつたら害も生ぜん、慰み半分位ひの考なら無害三審美書院及畫報社と只ニヶ所より發行せしのみにて、しかも審美書院の分は品切なり、畫報社の分は當選畫集定價未詳、審査員畫圖集一班五十銭、發行所は本郷湯島切通坂上畫報社四普通物の形状を模し、多少の美的観念を與ふるが目的ときげど不充分なるこど勿論なり■高等小學校圖畫敎師及び中等教員の資格如何(師心恐)◎何れも検定試験による、年数回試験あり、前者は未詳なれど、後者は中學校卒業者に限り、用器畫自在圖畫案及其他二三の學科試験あり、詳細を知らんど思はゞ文部省に問合はされよ■一特別讀者は地方講習生と同じく描法の説明をきかれますか二同讀者へ御配布の畫面の大さ如何三地方に居て東京の畫會の研究員になれる方法ありや四專門的に研究するに自然のデテールをのがさぬ様にかくのと、望月氏の畫のやうにすると何れが利益なりや五點綴的の描法とボカシ的の描法と初學者には何れがよきや六水彩畫は見える通りにーかくものにや、少々お負けしてより強くかくものにや、展覽會を見て腑に落ちぬ處あり(飯田藤朗)◎一特別讀者は會友と同資格にして、地方講習生と同じからずニワツトマン九ツ切、額緑自辨なれば、それよりは少々大なるもの差上でもよし三地方講習生となるより他に道なし四両方必要なり五寫すべきものゝ状態による六これも畫者の考次第、要はその畫いたものが充分自然の感情が出て他人に美観を與べることが出來たらよい、但研究中は自然を忠實に寫す心得で、あまり自分の考は出さぬ方がよからん■一『みづゑ』の巻尾の色紙は何處で賣りますか二サプライムの感があるとに如何、ななごとにや三フイキサテイーフは自製するに如何にしてよきか四水彩畫にケントは代用し得べきか五クリムソンレーキ、ライトレッド、ブラオンマターの用途を知りたし六吉田博氏は如何なる色を一番多く使用せらるゝや(日本橋和輝生)◎一スキ色といふ紙にて洋紙店には何處でもあり二壮美といふこと三シケルラツクをアルコールにてとく四時としてケントのよき場合あり、但中判か大判に限り、且その紙の裏(布目のある方)を用ひよ五用途非常に廣く、殆と何にて入る、空にも、樹にも、草にも、家根にもといふ程なれば一々擧げがたし六知らず、序に君に申上る、此誌面は御覧の通り紙數僅少なれば、質問は出來るだけ適切、且他の諸君にも有益なるものにして欲しい一の如き紙屋へゆく方が早い二は英和字典をさがせば直く出て來る五はあまりに幼稚六の如きは何の利益があるか知らぬが、吉田氏の繪を見たら分らうし、また答へやうにも、畫者には自分の好きな色があつて、それを他の色より多く用ひるといふ場合もあれど、いくら好きな色でも、繪によつては用ひぬ時もあり、また好きな色も時に變ることもある、今後は詰らぬ質問には答へぬことにします■一コムポシシヨンの詳細なる説明、またコンポシシヨンに關する書ありやニヱツチングの詳細なる解説用途、及其書名(北海道KT生)◎一構圖といふことにて、構圖法の詳細はこの欄にては説明しがたし、書物は、外國にはそれに關して幾多の著書ありときけど主編者の手許にはなし丸善にもなからん二本誌四十號に山本氏の設明あり、用途も分明すべし、書物としては構圖法と同様日本にはなからん

この記事をPDFで見る