報告


『みづゑ』第六十 P.15-17
明治43年3月3日

 今年は例年より大仕掛だ。研究所の人達は、一月二十三日を千 秋の思ひをして待焦れてゐた、試みに飴興のプログラムを見る と、活人畫が三ッもある、悲劇一幕、喜劇四幕は振ってゐろ、 ハーモニカ、ヴアイヲリン、尺八合奏、薩摩琵琶、筑前琵琶、 詩吟、手品、大魔術、そのほかいろいろある、準備は中々大へ んだが、サスガに毎日の稽古は休まぬ。さていよいよ當日になつ た。朝早くからワイワイといふ騒ぎだ、會揚ではまだ書割を畫 いてゐる、下では西洋嬬人の上衣を縫つてゐる、假髪の髭を結 つてゐる、入口の應接室には、大下先生の指圖で、此月の成績 品が壁間に帖られる、食堂は花組で飾られる、樂屋には女モデ ルが三味線の調子を合せてゐる、喜色は銘々の顔に溢れてゐ る、一時頃になると來賓が續々誥かける、百人程の頭が二階の 教揚に並ぶ、舞臺はと見ると、海老茶色の布で包まれて、前に は引幕がある、引幕には櫻の花と都鳥が銀紙の模樣で浮出して ゐる、餘興に段々進む、源平會長山田氏の琵琶によかつた、竹 内壌のヴアイヲリンは幕の内とは怪しからん、松山君の活人畫 『ミレの種蒔』は大喝采、赤城松山八木瀧澤諸君の、西洋婦人 皿廻しは、毎度のお稽古でいよいよ本物跣足だ、悲劇『犬の死 骸』で大笑はぜ、其間休憩、大急ぎてパクツク。それから喜劇 ぼ『女天下』とあつて、腹の皮をよらした、大魔術は種の分る處がお慰み、瀧澤嬢は頗る別品に見えて大評列、又々活人畫『春の夢』、其他數番あつて夜おそく散會した、日出度日出度
  (K、K、)
  横濱支部新年會
 横濱支部に、今年初めて新年會を催した。時は一月九日、授業が濟んだ午後四時から、横濵に野毛の鳴戸に開かれた。出席者は二十五名、來賓として、程谷小學校々長關先生、横濱の小島烏水山崎紫紅兩氏が見えられれのに、光榮とせねばならぬ。支部の幹事たる輕部氏の報告によると、支部は明治四十年の秋を以て開かれ、最初は會員僅かに三名に過ぎなかつたが、今日でに既に滿員で、此上欠員がなければ入會を許されぬといふ盛況であるとの事だ、そして大下先生が、風雨に拘はらず、東京から必ず休みなしに出張せられし事を謝した、夫から、會員惣代高畠氏、關校長、山本君等順次起立せられ、各所感を述べられ、最後に大下先生のお挨拶があつて宴に移つた。宴といふても、東京本部と同樣に、酒なしのお馳走で、そのうち來賓小島山崎兩氏の有益なるお話があつた。夫から、各會員に競ふて、餘興の出品があり、奇抜な福引もあつて、充分歡を盡し、散會したのは九時頃であつた。概况ザット御報告申上候。(席末の一人)
  飯山支部新年會 岩上行秀報
 一月二十三日飯山支部新年會は開かれたり。
 早朝より三々伍々會場さして打ちよる會員數多、いつもいつも盛なる本會は今日も亦誰一人休むものなし、當日は丸山先生の作品數點來る、其他森本先生の飯山展望の大作やら本部諸先輩の傑作數十點、及ひ支部會員の作品四十有餘點處せまきまて陳列せられたり。
 斯くて畫室の陳列装成なり、來賓を始め會員着席、森本先生より開會の辭を述べられ、次きて作品の批評あり、了りて茶話會に移り對談互評沸くか如く極めて盛なりき、午後は室内に郊外に各自思ひ思ひに彩筆を採り僕も亦一枚の駄作を得ぬ。
 四時閉會を告げられ名殘り惜しくも歸途に就く、日落ちて空に燈、地は紫、飯山の夕景、二大畫圖を示しぬ、あゝ愉快なる今日の新年曾!
  日本水彩畫會關西支部發會式
 一月三十日午後二時、孝明天皇祭の佳節をトし、處は京都市上京區姉ケ小路、市立初音尋常高等小學校の一室に記臆すべき日本水彩畫會關西支部の發會式は擧げられた。
 朝來の寒雨尚歇まず、街上の泥土靴を没するに拘らず、西より東より續々として相會するもの實に拾六名、會員數の徒らに多きを以て目的としない吾等の發會式としては寧ろ豫想以上のメンバーであつた。
 鈴木、深川、梶田諸氏の盡力によりて席定まるや、藤田紫舟氏立つて開會の辭を述へ、之れより直ちに規定書編成の議事に移り、甲論乙駁孰れも熱心に討議し、首尾よく十數ヶ條の條文を編成して、議事を終つたのに時正に四時、次いで會員の持ら寄りし作品を陳列して、忌弾なき有益な互評が始まつた。一通り之れが濟むと又席に復して茶を欷り菓子を摘んで盛んな茶話會となつた。かくて話が段々佳境に入つた時、何時の間にか廣い室の内外は薄暮の空氣に包まれて、表を通る豆腐屋の喇叭が忙しさうに響いて來だした。之れではと云ふので、簡單な閉會式の辭があつて、各自和氣靄々の内に次會を約して散會したのは五時に十分前であつた。
 此日の會員中拾四名は京都高等工藝學校學生で他の二名は近江膳所中學校の職員と生徒とであつた。これ等の人々は敦れも熱心なる水彩畫の研究者である。吾人はこの實質に富める團體が他日關西の水彩畫界の大勢力となることか信じて疑はないのである。
 况んや聞く處に依れば早や既に京都在住の諸大家の内には熱心にこの事業に仝情を寄せられつゝある人もあると言ふに於ておやだ。諸君右の如くにして我關西支部の基礎に成立せられた。願くば如何なる種類の人たるを問はず早く來つてこの樂しき團欒の一員となり給はんことを。
  終りに臨んで吾等の爲めに、特に會場を周旋されたる、柳池 尋高小學校長服部與三氏の御同情を深謝する(エフ生報)
  岡山展覽會報告
 去る一月二十三日、(日曜日)當地商業會議所にて白綠會第一回洋畫展覽會を開き、多數の觀覽者ありたり、
 出品總數七十餘點中、油繪四點、他は皆水彩畫。出品者は水彩畫研究所の寺田季一氏、同會友富田圭五郎氏、東京。京都兩美術學校生徒、當地專門家、同有志者、白綠會々員等なり、
  (タカシ)
  日本水彩謁會研究所飯山支部素絢會規約
 一目的 水彩畫、圖案等を研究するを以て目的とす
 一事業 毎月第一、第三の日曜日に於て研究會を開き實技の研 究及ひ作畫の互評をなす
  毎年一圓以上本部の教授出張して實技の指導及ひ講話をな す、
  毎年一回以上本部及ひ支部の作畫を陳列し展覧會を開き公衆 の縦覺を許す事あるべし
 一會員 内部會員實技の研究をなすもの
  外部會員 會員にして他地方に在學するもの
 一會費内部會員は會費として毎月金拾錢を納むへし但外部會 員は之を徴収せす
 一會場 當分飯山中學校圖畫室を以て之に充つ
  宮崎洋畫研究會規則大要
○本會は洋畫の研究を目的とし會場を宮崎町橘通徳善寺内に置く○本會々員を分ちて賛助會員名誉會員通常會員の三種とす○賛助會員は特に本會を賛助せられたる者にして名譽會員は斯道の名望家にして篤志を以て本會の進歩發展に努力せられ特に會員の出品畫に對して批評を仰ぐものとす通常會員は月次會に必す二枚以上の出品をなし遠慮なく交互に批評して思想の交換に努め斯道の發展を圖る事○月次會は一回(其月の最後の日曜日午前八時より十二時まで)開會す○大會は一ヶ年二回臨時に開催するものとす○通常會員は會費として二十錢を毎月十五日迄に幹事の手下迄納附し新に入會せんとするものは入會金五十錢を添へて副會長又は幹事迄差出す可し○會員は年齢地位を問はず手腕の巧拙を論せず只一意熟心なるものを歡迎す而して一致親和を旨として互に意氣の投合に努むるものとす○會長山田辰之助〇副會長田村昇○幹事近藤靜雄

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