文藝倶楽部滑稽揃


『みづゑ』第六十二
明治43年5月3日

 『まア島渡近くへよつて、能く見給へ! 彼の畫師はやッぱり巧い處があるね、此の肖像畫の能く似てゐることといふものは、宛で口でも利きそうぢやァないか』。
 『桑原々々! 口を利かれては耐らない』。
 『何故?』『何故かって、此のお爺さんにはまだ借金が殘って居たもの』。
  ○
 甲『僕の手腕も凄じいものさ、この間戯れに往來の敷石に、五十錢銀貨を畫いて置たら、通りかゝつた乞食がそれを取らうとして、生爪を剥がして了つたなどは我ながら驚いた技倆さ』
 。乙『そんな事で驚くやうでは君もまだ手腕が生たよ、僕の如きは石垣の隅に豚の肉を畫いて置たら、餓た犬が其間違を見つけ出す迄に、石の半分を喰って了つた』。(文藝倶樂部滑稽揃)

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