寄書 樂しい一日
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『みづゑ』第六十二
明治43年5月3日
四月十八日。日曜日。快晴。セピヤクラブの會員十名近くは約束の如く八時半妻科のお宮へ集合した。別役先生も見えて一行は安茂里村を指し春霞を排して出掛けた。豫期の如く日本晴の好天氣、背はポカポカいやヂリヂリといやに暑い。丁度此の日は安茂里觀音のお祭なので行く人で目のまわる樣だ。
汗臭い人と一所にゴタゴタになつて相生橋を渡つて行くと杏花は今が滿開で安茂里一村は花で蔽はれ得も云はれぬ。淡紅濃白春の女神の色彩の巧なるを今更の樣に痛切に感じた。
ア、僕にあの女神の樣な腕があつたら……右へ行けば觀音に行くのだが一行は俗人(怒るだらうが)と別れて道を眞直に取り田甫へ出て思ひ思ひの所へ腰を据える事にした。
筆造宗森金長閑な日だ。遠山の山腰の一刷毛の霞。路傍の若々しい草、ア、春だ、春に限る。
變てこなスケッチを二枚作つて歸つた。電燈が嘲ける樣にピカーリピカーリ。(四十二年作)