問に答ふ


『みづゑ』第六十三
明治43年6月3日

■一『みづゑ』六十二中繪甲州の初夏の石版に淡い線を認む、あれは輪廓をとつた鉛筆の痕なりや二全圖の黒き色は普通の墨なりや、また斯の如き黒は最後に用ふるものにや三鉛筆畫一色畫等夜分研究してよきや(富岡洗帆)◎一然り二然り、最初に畫く方が順序、但唐墨にては彩色の際墨が散るおそれあり三可なり■一色彩透親畫法の艮書ありや二『みつゑ』挿繪の寫眞版を模寫するの利害三コマ総及漫畫の區別四何年位ひ習ひたら普通見苦しからぬ繪を畫くことが出來るにや五今年も長野市に水彩畫の講習ありや(貴程生)◎一色彩の遠近は形態の透視畫法のやうに規則立ちて説明することが出來ぬ、それが爲めか別に書物として發行されたものをきかない二模寫はあまり利益なし、その間に實物の寫生をした方がよい三本誌六十一號に答へあり四其人の才分と勉強次第、又都會に居るのと地方に居るのとでは違ふ、教師に就くのと獨習と違ふ、普通敎師に見て貰つて、眞面目な寫生の百枚もすると一寸見られるものも出來やう五未定
■廣島に夏期講習ありときく事實にや、是非開かれたし、京都にも同様の企ありとの事眞偽を知りたし(南海道畫狂生)◎關西にて開會するかも知れず未確定■『光風』は毎年何月頃發行さるゝにや(愛讀者)◎期日定まらず■石膏模型の汚れた時はどうしたらよろしいか(高松茂)◎石鹸水をつけたブラシで洗つたら汚れは取れるが元の如く純白にはならない■一『みづゑ』中に一色畫の寓眞版ありや二一色畫の臨本ありや三一色畫には何をモデルとして研究せぱ可なるや(但静物畫を一通り習へるもの)四獨習に適する鉛筆臨本、また鉛筆の臨本寫生の利益如何五一色畫で白布を畫いて見たら固くなつて布らしく見えぬ其描法を知りたし(獨練生)◎一近頃の『みづゑ』の挿繪には一色畫なし二和製にては無きやうなり舶來には數種あり丸善書店に問合はされたし三静物が出來るなら、静物的風景即ち大きな葉の草とか樹の根石燈籠といふやうなものを試みたまへ、但第五の問で察すると君はまだ静物が一通り畫けぬらしいから充分やり給へ四鉛筆臨本としては外國ものは大日本繪畫講習會(麻布飯倉四丁目)にて取次しものあり、同會に問合はされよ、ホースター若くはカッサンの筆最も適當、次に臨本寫生とはおかしい、模寫の事ならんも、正確なる臨本なら模寫してもよからん、利益としては物質を現はす線の使ひ方など覺える五技倆が足らぬ故なり、初めより調子をよく見て叮重に色を重ねてゆけば固くはならぬ、形が間違ふと其物のやうに見えぬ、別に特殊の描法は無し■一眼の高さを以て極めたる地平線之、地と空の界の地平線とは圖取りの上に相達ありや、其何れに從ふべきものにや二ワツトマンにドーサを引けば光澤あるやうに、見えて良しと思へど如何、よろしければ其方法を問ふ(石川退次郎)◎一眼の高さ即ち地平線なり、平地にして廣き處なら空と地との堺が目の高さなり、山あり樹木あり又は家ありて眼界を遮る時は地平線といふことが出來ぬ二その様な例を知らず、繪は光澤あるのがよいのではない、むしろ光澤のない方が上品としてある、光澤と潤ひのあるといふことゝは異ふ■一色の濁るのは未熟のためにや二繪を頭で畫くとは如何なる意味に?(和多田生)◎一然り、多くは下の色の乾かぬうち上から他の色を塗り筆先にて混ぜ返すためか、又はパレットの上であまり澤山の色を混合するためなり、又下等の繪具は濁り勝なり二筆先ばかりの技巧を重しとせず考へて畫くといふほどの事なり■一水彩畫にて描ける人物の好手本ありや二人物を糟古するによき參考書を知りたし三畫を描くに非常に腦を働かす者にや、腦病者にして畫を學ぶも差支なきや四静物寫生の話は完結せしにや五大阪の研究所は松原天彩畫塾のほかに無きや六繪葉書競技會を開かるゝ畫なきや(大阪緑水生)◎一舶來品には數種あり、丸善又は大日本繪畫講習會に問合はされたし二これも繪畫講習會に舶來の書あり三理想的繪畫又は模様圖按等は別として、普通風景寫生等をやるのなら腦の爲め大なる利益あらん、但炎天の寫生などはいけまい四未完。鉛筆、チヨーク、木炭だけ濟みたり、此次は一色畫に移り、色鉛筆、淡彩、グワッシ、水彩、パステルといふ順序に秋ごろより引續き掲出すべし、それが濟むだら戸外寫生の話をなす筈五知らず六希望者多ければ秋頃から始めてもよし■一遠山の禿げは其色を残すべきや、ホワイトをまぜて後に塗つてもよきや二中景の藪は如何に畫くべきや三近山は粗略に謁くものにや又は綿密に謁くものにや四丸山先生の水彩箇講義録は今もなほ發行されて居るにや(廣島神田)◎蘭遠山の色の中にホワイトを含むた時は後に描いてもよけれど、然らざる時は残して置た方がよい二調子を誤まらぬやう見えた通りに畫くといふのほか別に特殊の描法なし、如斯質問に對し到底満足の答を致し難ければ、他人の作を澤山見て自ら悟り、且實地に就いて研究を重ねるのが一番よからん三その繪の調子による、全體が綿密ならやはり綿密に寫さねばならぬ、他と比例して飛放れてはいけぬ、近山が主點となる場合もあり背景となる場合もある、これも實地に就きよく他の調子に合ふやうに畫くのである四書肆の都合にて中絶■一スケツチ箱の大さはドノ位ひが便利なりや二スケッチとスタデーの確かな分界を知りたし三本誌六十號と六十二號の口繪色彩と描畫の順序を知りたし四寫生の時空色を畫面全體に塗つて置ては如何、例外はあらんが空色は何處でも反映ずる故(慶島YNK生)◎一九ツ切若くは八ツ切が便利二確かな分界もなくまた分界を立てる必要もなし三原色版は原畫と多少の相異を生ずべく、其色彩はいくら説明しても繪具の色の相異あればあまり益を認めず、又かゝる場合を寫生するとして、其順序も空を先にする時あり、後にする時あり(雲などの都合で)、一定したものではなく、あまり參考にはなるまいと思ふが、六十二號『森の下道』で少しく云ふて見れば、輪廓をとつて後、オレンヂヴアーミリオンの淡いもので全體にワッシを試み、次に幹の色を塗り、オーレオリンを以て幹を除いた部分を一面に塗り、コパルト、オルトラマリン、インヂゴー等によつて成れる緑色にて杉の葉を書き、前景の草は透明色の黄を重にして描き、花は後にホワイトを混じて置きたるものなり四多くの場合不可なり曇りし日などはよけれど、晴れて濃き空色など、地の方へ塗ると日向の感じを失ふ場合あらん、空の色よりも其時の光線の色空氣の感じを全畫面に塗る方がよし■ローズマダーレモンヱローコバルトの三原色にて畫かんとする時は、少しにても青味を帯びたるものはコバルトを用ふるといふ風になすべきものにや(福岡RT生)◎意味不明なれど、假に三色の繪具で寫生する時には、其三色を巧みに混合して實物の色を出したらよい、又パレットの上で混合せずに、點若くは線で畫くのもよい、その方が却て感じがよく寫るかも知れない■原田直二郎先生記念帖購求したし發行所代價を問ふ(駒田彦太郎)◎該帖は會員のみに頒ちしものにて僅かに百五十部の印刷に止まり、一々番號を附してあるといふ珍本なれば手に入ること難からん

この記事をPDFで見る