畫家バーヂ、ハリソン氏の話

芋洗生撰
『みづゑ』第六十四 P.18-19
明治43年7月3日

○畫かきが、どんな材料を使つて、畫をかくかは、全く、畫かき名々の性情の問題であつて、一概に極めること は、出來ぬ。これは、畫かきが、名々、自分で研究して、自分に、一番同情ある材料を、撰ばねばならん。
○昔から、畫を描くに、種ろ種ろな材料が使はれたが、今、實際行はれて居るのは、パステルと水彩と、油繪具、の 三つに過ぎない。此三つの方法、材料には、それぞれ、長所もあるし、又た、短所もある。
○水彩は、パステル程、甘味が多くない。が材料の弱點も、パステルよりは尠ない。パステルの一番の缺點は、耐 久力の薄弱なことであつて、此點に於て、水彩繪具の確かなことは、ラハアエル、或は、レオナルドの下畫を 見ても解る。
○それに、晴れ晴れとした、新鮮な感じと、軽快な、微妙な心ろ持では如何な繪具でも、倒底、水彩畫には叶はん。○長所即ち短所である。水彩材料の短所は畫かきが、繪の具を施した後で、どんな調子に、乾き上がるかゞ、容 易に前知出來ぬことであつて、此材料には、不確と云ふ分子が、瞬時も去らない。
○併し、此不確しか、漠然とした性質が、水彩畫の、重な妙味である。
○それに、水彩材料の便利な處は、比較的、明かるい工合を描く時と、餘り面積の大きくない畫を描く時であ って、調子の低い畫や、面積の大きな畫には、材料が輕る過ぎて、それに肝心な、深みと、力らが足りない。
○水彩繪具には、鉛の分子が這入つて居ないから、殆ど、どんな色を使っても、化學作用の爲に、變色すること もなく、又た後になつて、變ると云ふことも、殆どない。安心して使かへる。

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