名家談片3


『みづゑ』第六十四
明治43年7月3日

 大理石は伊太利が一番よいのだが、日本でば常陸の眞弓山から出るのは彫刻に使へる、債は一切(一尺立方)四五圓からあつて、大きくなる程價の割合が増してくる、質は細かいのも粗いのもある、透明に過ぎたのにイヶない。
 原型が出來れば、アトは石に星をうつて段々缺いてゆくのだから、美術家自から手を下さない、仕上げに注意すればよいのだ。丁度材木のやうに、木口と板目とあつて、同し石も方向によつて丈夫な處と脆い處がある。
 大理石の彫刻物は、二切位ひ石を使ふ大きさのものなら、原價七八十圓はかゝる、同形のものが澤山出來るなら從つて安くなる。彫刻物の運搬には、丈夫な箱の中に木で仕切りをこしらへて、上下左右に少しも動かぬやうにさへすれば、遠方でも取扱が粗末でも破損するやうな事はない。
  ○
 繪かきは質素な生活に慣れてゐなくつてはいけぬ。近頃繪かきの生活が高くなつたので、餘計働かなくつてはならない、それがために自分の得意な製作が出來ない、繪も高く賣らなくつてはならない、一たいこの繪の價段はちと高いやうだ。
 繪かきが役人になりたがるのば不量見だ、日本では役人といふと何となくエラさうに思ふから困る、役人になると段々繪がかけなくなるやうだ。
  ○
 世間にばクセのある繪かきが多いが、一般の賞賛は得られない。併好く奴は馬鹿に好く。いづれクセのある繪を好く奴はクセのある人間だ。
  ○
 この頃流行る半出來のやうな繪だね、印象風とでもいふのかな、アレはまア日本の鳥羽繪のやうなものだね、面白いには相違ない、たゞ面白いといふ丈けだ、四ツか五ッの子供の描いたものも面白い事があるからね、あれで濟むなら木炭を持つてアクセクするには及ぼないネ。

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