報告


『みづゑ』第六十六
明治43年9月3日

 北越洋畫會規定
 一、本會は主として水彩畫及應用美術の研究をなし相互の發達を計るものとす
 二、本會は男女を問はず斯道に趣味を有する同好者を以て組織す
 三、本會事務所は當分三島郡出雲崎尋常高等小學校内に置く
 四、本會には理事を置き一切の事務を處辮す
 但し理事は當分長谷川善作、高橋浦二郎、安達福次の三氏之に當る
 五、入會志望者は住所、氏名、職業等を明記し入會金を添へ事務所へ申込むべし
 但し入會金は平等を保つため入會期日に應して差額あるものとす
 六、會員は會費として一人一ヶ月金拾貮錢(郵券代用差支なし)を納むべし
 但し一時に數月分納むるも妨なし
 七、本會は會員一人に付金拾錢の割合を以て積立金をなす
 八、本會には水彩畫會の支部を置く
 九、本會の積立金相當額に達すれは幹部の出張を求め講習會を開く
 但し講習の位置は理事に於て本部と協議を遂け前以て通知す
 一〇、講習開催は凡二ヶ月前に廣告し會員以外の受講者は受講料を徴牧す
 一一、本會は會員の作品を集め回覽帖を製し互評に便す
 但し本項に關する規定は別に之を定む
 一二、本會は時々前項の批評並に其の報告をなす
 同覽帖規定
 一、會員は隔月一回其作一點以上を本會に提出すること
 二、提出め作品は其裏面に薔題製作の時日携所天候等を記すること
 三、提出の作品は本會に於て之を纒め回覽に供す
 但し手數と送料を省かんため各自に於て回覽の際添加するも妨けなし
 四、回覽帖の送達を受けたるものは三日以内に次番へ向け發送すること
 但し其經費は發送者の自辨とす
 五、作品に對して遠慮なく批評すること
 六、批評は回覽帖奥付用箋に記すること
 但し批評以外の文言は嚴禁す
 七、回覽帖は汚損せざる樣注意するは勿論凡て徳義を重んすること
 八、回覽を了したる分は永く本會に於て保存し展覽會等に出陳することあるべし
 但し返送を望むものは其料金を送ること
 仙臺紫陽畫會展覽會
 青葉山の緑濃やかなる本の間に、高く鳴く時鳥の聲を聞く樣になつた六月の、十一、十二の兩日我紫陽畫會第四回水彩畫展覽會は、當市中央なる五城館に於て開催された。これより先き當地各新聞は多大の同情を寄せ、盛に援助を與へられた爲め、意外の好況を呈したのは、本會の最も欣喜に堪えざる所であつた。扨て出品の重なるものを申上くれは先づ故淺井忠氏、大下氏、丸山氏、石井氏、織田氏、河合氏等諸大家を始め、當地にては、會長武田文太夫氏、川上爲之助氏、小林誠之助氏本會員にては郡山、中津兄弟、下山兄弟、菅野、坂、六波羅、兩佐藤、後藤、山田、相原、丹野、大塚、西村、庄司等、東北洋畫會の清野、在田、島口、佐々木、吉岡、佐藤、菊田、師範及縣下各中學校生、東京紫紅畫會の川上、川村、吉田、大串。東京、青木繁、萬代、野木、池田、伊集院、福田。京都堂本君等其他諸君の出品を合せ二百余點二日間の入場者約四千人にて當地空前の盛會てあつた。
 抑も我紫陽會は、業務の傍ら或は學業の余暇等に、水彩畫を研究し、進んでは其趣味を自然の風趣饒かなる此の東北の士に傅へんとの抱負を有する、全くのアマチュアの會であつて從來三回水彩畫展覽會を開催し來つた。尤も當地にては他に東北洋畫會が毎年展覽會を開催するが出品は專門家及美術學校生徒等の油繪多數を占めるので、水彩畫のみの――而も名家の水彩畫多き展覽會は、實に今回が始めてであつた。從て本會員等は勿論觀覽の公衆に多大なる感動を與へ、水彩畫の玄妙にして最も興趣深きを感得せしめ得たのは吾人の大に滿足する所であると同時に、出品せられたる諸氏及多大の援助私與へられたる諸氏に對しては深く感謝する次第である。
 あゝ畫趣多き東北七州の學府に、此の盛大なる、深き印象を與へし、我展覽會の成功を心私に誇りとし更に猛進を期したのである。(紫陽畫會委員報)
 遷喬會報告
 四月三日例會には出品數十二枚、外に高木氏筆の日本畫六七枚なり。炭箱の鉛筆寫生をなして散會、五月八日例會は出品數十五枚にて、會員は窓から外を寫生するあり靜物寫生をなすもありて正午散會致し候。本月滋賀縣立膳所中學校内西田三郎君木曾山林學校生徒林恆君より入會申込有之候。亦水野忠四郎君は松本市教育學校へ入學せられ、一時名義だけ止むる事となり候。六月五日例會には、會員の舊作を全部出品致し中々賑かに御座候ひし。針箱を寫生して散會致し、本月は十日に例會を催し候處出品數二十四枚あり、以前に比して何れも畫面大に眞面目なりと思はるゝ作品も多數にて、設立當時に比すれば枚數に於ても、亦各自の畫に於ても大なる進歩を認め、實に愉快に存じ候、來月は暑中休暇にも有之候間、一層面白き會を見るべくと樂み居り候、尚本月出品中には、課題の土瓶の寫生四五葉ありて面白き研究をなし候。何を申すも田含の事とて、會員たる吾々とて只水彩畫に趣味を有すると申す迄なれは、一般世間には繪を見て呉れる人もなき樣の有樣に御座候、尤も下手な故とは承知致し居り候へ共。
 併し吾々の小なる會の力も意外の所に現出致候、其は、當町より二里餘南なる、上松(駒ヶ根村大字)小學校長並に一名の教員が、吾々の作品を見て水彩畫の趣味を解し、新に研究せむとて、材料を得べく人を介して照會し來り候、此有樣にては、數年ならずして同好者の數多くなりて、山紫水明の當地に講習會を御願ひ申し得べきかと存じ居り候。
 先づは遷喬會の報告を兼ねて當地近況御報告申上候。
 七月十日遷喬會幹事川崎本雄

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