寄書 其一時

みい坊
『みづゑ』第六十六
明治43年9月3日

 海岸に出た時は最早日は西に落ちて東の空は薄桃色にやけて居た、一人の海老茶袴が暮るるも知らないで出入する白帆を寫して居る、彼は今畫より外に何物も思ふ事はないのだ、自然に仝化されて居るんだ、其やさしい姿美しい景色―櫻島の悠々として偉大なると、千歳ふる磯馴松の形面白きと、實に善いコントラストだ。
 早くも三脚を据へてのがさじとあせるうちに、それと氣ついた彼は、すぐ三脚をたゝんで、紅くした顔はづかし相に片袖にかくして、沖邊へ振りむいてしまつた、段々潮が滿ちて來て、其足のあと迄打ち消してしまつた頃には、もう四方は黒幕にとざされて、東の峰の頂がほの白かつた、急に海風が身にしみて來た

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