寄書 一生の娯樂
富岡洗帆
『みづゑ』第六十六
明治43年9月3日
僕が繪具で畫を描いた一番最初は、尋常三年生十歳の頃であつた。丸形の十二色入を買つて貰つて、兄さんの軍隊手帳の余白へ、煙草の中から出た草花の畫を描いた、之は今で殘つて居るが、其頃としては一寸奇麗に描いてある。
それから、水彩畫なる名丈けを知つたのは、高等三年の時である。大下先生の水彩畫が少年世界へ出て居た時であるが、決して其の如何なる物であるかは知らなかつた(今でも知らぬが)、只「繪具ばかりで書く繪だ」と、之丈は知つて居たが、英語など知らんので、展覽會へ大下先生の春の川を摸寫して出した時も原畫通り菱形の中にTOを書き付けてをいた位である。今は多少の美術書も見、又『みづゑ』等に依つて其一般を知り、又は洋畫展覽會などを見て大に興味を増し、煙草や酒や他のことに趣味を頒たず、之を以て一生の娯樂とする考である。