寄書 上京當座記

星眼生
『みづゑ』第六十六
明治43年9月3日

 僕は本年四月に上京した者だ。何卒渇望せし大下先生の肉筆を拜觀の光榮に浴せんものと、取るものもとりあへず、先生の邸宅を訪問した、ガラリと入口の戸を開けたら、令夫人(?)が出で來られて先生の御留守を宣告せられた、この時一寸面喰いました、又コソコソと取るものもとりあへず。
 引きかへして、水道町の研究所へ行つた、兼ねて寫眞版で見た、中村不折氏筆の看板がなつかしく見えた、門番サンの御許しで所内を參觀した、研究生二三人おつた、水彩畫が二點計りあつた、細い寫生には驚いた。二階へ上つたら何にも無く油繪の描きすてが一枚あつた。僕はコノ日、失望せざるを得なかつた。
 大下氏は毎土曜日午後なら大テイ在宅、研究所は毎月第四日曜日には月次會があつて參觀を許します。

この記事をPDFで見る