寄書 初夏のスケッチ

KS生
『みづゑ』第六十六
明治43年9月3日

初夏のスケッチKS生コバルトに少量のプロシアンブリユーをまぜたような、初夏の空白い水氣を多く含んだ雲が、ふわりと、未だ春のねむりよりさめぬやうな平尾山の上に浮んで、雲の陰か鮮かに印せられて居る。何所となく鶏聲が聞えて、湯川の流れのさゝやきが靜かに靜かににひびいて來る、時々ブーンと蝿がとんでくる、前の畠こい緑色をした野さいの葉に、白い蝶が二三ひらひら卵を産みつけてとんで行く、後の桑の木で、行々子がかまびすしく囀りだした、遠くの村よりあひ色のけむりが空にスーと流れてあたりは又元の靜けさにかゝつた。(七月五日)

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