紹介


『みづゑ』第六十六
明治43年9月3日

◎日本アルプス小島烏水著
 京橋區中橋廣小路前川文榮閣發行
 菊判洋装三三○頁定價貮圓
 小島氏の山岳に關する興味ある文字は今こゝに紹介する迄もなく世人の普く知る處なり、依て此書の體裁を記し見んに、先づ箱より出せば、白木炭紙の厚表紙に日本アルプスの金文字燦として輝やき、下には織田氏の筆になれる裏白金梅に黄楊羽及び淺黄斑の蝶をあしらひし瀟洒なる圖案あり。表紙を開けば、鈴木氏の筆なる君かげ草及アラヽギを配せし色の心地よき圖案を見るべく、更に一枚を繰れば、丸山氏筆の駒草、萬年雪、偃松を工風せし扉紙に眼を奪はるべし。寫眞は十二版の多きに及び、コロタイプ又は寡眞版として何れも得易からざるもの、別に大下氏の筆になれる惡澤山及び針葉樹の原色版、茨城、小杉兩氏のスケッチあり。漸く見終りて表紙の裏に及んで、再び織田氏筆の石南花の模樣を見る。近來書籍装釘の上に注意を拂ふ事多くなりゆきしも、其大部分は、徒らに金銀を塗採し俗目の喜びを購ふに過ぎす、常に遺憾に思ひしが、今此書を手にして、其意匠の高潔なること恰も高山の雪の如きを見て充分の滿足を感じたり、同時に、かゝる贅澤なる装釘に成りし本書の價の甚しく廉なるに驚きたり。敢て山岳といはず、自然を愛し自然に趣味を有する諸士は、たゞ其外形を一覽せしのみにても、本書を得て書架を飾らんとするの念を禁じ得ざるべし。
◎東京十二景のうち『よし町』石井柏亭君の筆になれる一枚刷の錦繪にして、江戸式の筆法にて現時の風俗風景を寫せしもの、素描の修養深き氏のことなれば、形態よく整ひ、色彩またオチツキありて趣味極めて深し。(一枚二十五錢神田淡路町一丁目琅★發行)
◎山岳第五年二號(一部三十五錢、横濱市本町四丁目高野鷹藏方日本山岳會)

この記事をPDFで見る