談片
『みづゑ』第六十七
明治43年10月3日
客観的寫生は往々寫眞になりたがる、主觀を以て書いたのでは、寫されたものがいつも同一の調子になる、繪は主觀を透して客觀を掴むだものでなくてはならぬ。
○風景を見る、穏やかな感じだと思つて書架を据へる、其繪は終り迄初めの感じを忘れずに畫かなければいけぬ、出來上つた繪に最初に感じた穏やかといふ心持が出なけれはいけぬ。
○タトへ自分は暗い處に趣味を持つてゐても、いつも暗い處ばかり畫いてゐては、終には調子を忘れて、段々眞暗な繪が出來るやうになる、自己の趣好によつて專門に入るのはよいが、時には明るい處も畫いて見る方がよい、されば暗い處を畫く上に於ても、必ず利益も發見もあらう、修業中は好きだからとて一方に片よるのはよくあるまい。