膳所水彩畫講習會日録

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藤田紫舟
『みづゑ』第六十七
明治43年10月3日

膳所水彩畫講習會日録
  藤田紫舟
  b:八月二十日 午前三時大下講師馬場驛着、直ちに當町旅舘快風 樓に迎ふ、午后小林君と共に講師を石山某料亭に招じ開期中に 於ける諸般の打合せをなす、尚當日までに申込まれたる會員左 の四十三名なり。
  愛知岩月完次、滋賀上野直、京都岡本善之助、和歌山林義明
  三重奥瀬英、兵庫津川清平、埼玉野原庄作、大分水之江公 明、長野小口光雄、岐阜清水嘉藏、滋賀小野信治郎、★西田 宇一、大阪齋藤清治郎、京都中嶋元七、高知板垣美高、滋賀 中川專治郎、全疋田黄邨、大阪伊吹廣士、京都池上年、愛知 北條俊治、岐阜水谷藤太郎、兵庫菊川熊高、熊木炭谷與平次
  滋賀西大路弘一、★大杉信夫、★中川良圓、★中邑牛尾次郎、 ★山本純如、★山本繹如、★森山爲智郎、★木南三千三、廣 嶋丸石壽子、静岡川合改次郎、滋賀望月復三、大阪泉本春信、 ★吉村元造、★芝谷宗治、★大熊進次郎、★澤村政太郎、愛 知富田圭五郎、大阪松村實成、東京竹内久子。
  二十一日 豫定之通膳所中學校階上敎室にて開會、本日午前八 時始業の筈なりしも俄かに會員數氏の增加するあり、事故の爲 めに九時前に到りて漸く開會、直ちに講師の水彩畫法講話に移 り正午に至りて、終了、午後は校門前の神社境内にて集合寫生講 師の懇切なる巡回指導あり。
  ★夜七時馬杉合宿所にて懇親茶話會を開き、講師の出席あり、 藤田紫舟主催者を代表して講習會開催に就て一場の挨拶をな し、次で合宿所委員として吉村、水谷、佐久間三氏を推薦、之 れより互に氏名を交換し、胸襟をひらきて歡談大に振ふ。最後 に講師の有益なる講話ありて十時散會。
 尚當日の新會員次の如し。
  愛知渡邊安吉、岐阜大野承太郎、京都岡本邦二郎、大阪薄政 太、高知濱田勝一郎、滋賀大塚武夫、廣嶋影久良雄、滋賀那 須賢勝、三重佐久間準三。
  二十二日 本日より午前七時半始業、講話約二時間、終つて實 習室にて靜物寫生、書物と草花、モデル台は二ヶ所に配置す、 この日京都御滞在中の河合新藏先生來場せらる。
  午後は當町郊外粟洋ヶ原にて郊外寫生をなす、講師の巡回指導前日の如し。
 今日又新會員三氏を加ふ、曰く滋賀富岡成章、★笠井淳、★平塚胤吹。。
 二十三日 午前始業前日に★じ、今日の靜物寫生のモデルは西瓜とビール壜なり。
 午後は湖畔にて寫生、講師の指導前日の通。
 二十四日 終日三井寺境内に寫生會を催す、薄暮散會。
 午後七時より、馬杉合宿所にて講師の西洋畫派に關する夜間講話あり、★十時終了。
 この夜復叉婦人會員一名を加ふ、三重大藏靜子。
 二十五日 午前の課業前々日に★じ、今日のモデルは玩具なり。
 午後、郊外茶臼山上にて寫生、講師の指導如例。
 二十六日 午前の課業前日に★じ、今日のモデルは冶鑵とマッチ也。
 午後は當町より一里の南なる石山寺境内にて寫生、講師の指導如例。
 この夜七時より快風樓にて再び講師の夜間講話あり、★夜の講話は『水の研究』にして講師が多年頴敏なる審美眼によりて、特に探究ぜられたる『水の美』は、遺憾なく吾等の前に詳述せられ、聴衆をして裨益する處頗る大ならしめたり。十時終了。
 二十七日 最終の日は來れり、午前は例の通り始業、最終の講話ありたる後、廻廊に會員一週問の作品を陳列して講師の懇篤詳密なる批評を受く。
  午后は二時より合宿所にて閉會式を擧げ、小林氏立つて閉會の辭を述べ終つて講師叉一場の挨拶あり、續いて盛んなる互別會 に移り、茶菓の間奇秡なる余興雲の如く起り、歡呼の聲拍手の 響天地を動かし、大湖の水爲めに覆らんとす、蓋し未曾有の盛 會なり、已にして暮色漸く迫り、時針五時に垂んとするに及び、 互いに惜別の涙を呑んで萬歳聲裡に散會、こゝに全くこの紀念 すべき講習會を終れり。
  附記總計五十八名の會員中、埼玉野原庄作、東京竹内久子、 滋賀中邑牛尾次郎、愛知富田圭五郎四氏は遂に參會せず、尚 中途都合により歸宅せられたるもの三名ありたり。
 

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