問に答ふ


『みづゑ』第六十七
明治43年10月3日

■一 日光直射の下に於ける寫生の可否
 二 六十六號『しけ』の描法と色彩三原色版は肉筆よりも調子弱きものに候や(湯淺生)◎一 寫生の時畫面に日光の直射するはよろしからず、物の蔭に於てか傘を用ふべし、啻に色調を正確に現はし難きのみならず、室内にて見る時に殆と別様の感を生ずべし二 圖は短時間のスケッチにして、全部四號程の太さの穗の長き油繪筆を用ひたり。初めに空を描き次に遠山、中景、前景といふ順序にして格別異なりたる手段も探らず。空の色は多分ライトレッドにオルトラマリン、叉はインチゴを加へし暖かき鼠なりしならん、草はインチゴ若くはアントワープブルーにオーレオリンを混ぜし綠なるべく、柳には多少のバアントシーナを含むべし、柳の蔭にはブラオンピンクの色あり、舟の光れる處は、殆と空色と同じく蔭ににインチアンレットにオルトラマリンを交へて作りし事と思ふ、水は原色版 では色を含めど、實は白紙其儘にて、バ レットの上に在る繪具の残りの混ぜし色 にて波の影を畫きしものなり三 其出來 工合によりて一様ならず、併し、概して 肉筆よりは硬くなり、強くなり、肉筆の 微妙なる調子を失ふ傾あり■習作と創作 の區別(吉田伊勢雄)◎習作とは稽古畫 といふこと、創作とは自己の創造により て出來し繪にて、普通新作と同じ意味に 用ひらるゝが、古い製作にても、前人の 模做でない時に區別する爲め、誰々の創 作だといふ場合もあり■原色網目版と原 色コロタイプと何れが原畫に近きや(自 然子)◎只今の處では、網目の方が技術が進むでゐるから、遙かに原畫に近いも のが出來る、コロタイプの方は大に出來 不出來があるとの事である。兩方進歩した場合の比較では、丁度寫眞版のやうに 綱目の精巧なもの、方が感じが出やう、 ヨロタイプは明暗の細かい調子は可なり 現はれるが、大きな強い調子が出ないで 割合に深味が欠けて見える■寫生とスケ ッチとの別を問ふ(SN生)◎スケッチとは略畫又は下繪といふ意味で(下繪に精密なるものあり此場合にもスケッチといふ)完成されない繪を指す、寫生をいへばモットが廣くなる■一『曇りたる夕方煙を寫せしが感じが不充分なり方法をきゝたし二 美術學校の課目三 水彩畫に關する雜誌の有無四 ニユートンとニユーマンとの繪具の優劣(YT生)◎一 ホワイトを用ひてもよけれど、手際よくせざれば失敗すべし、筆の尖にて洗ひ取るも可なり、初めより残して置くと固くなるが、注意して畫けばよからん二 實枝の他に、美術史、解剖學、佛語等の講義あり、詳細は同校より規則を取よせ見られよ三 なし四普通美術家はニユーマンを使用すれど、ニユートンにても充分なり、色によつてはどの店の品にても充分の發色を得難きものもあり■我が國に於ける印象派は誰なるか、また如何なる描き方をなすものにや(大阪綠水生)◎別に印象派に屬してゐるといふ畫家はない、中澤弘光氏の作には時に印象畫風のものあり、白馬會の人々また太平洋畫會の若い畫家のうちに此風の繪をかく、描法は強き印象を現はすのが目的であるため、往々原色を用ひ、點若くは線によつて描くことあり。次に二はスキ色といふ紙で、『みづゑ』に用ひしは菊判八十斤-なり、小賣はせぬ事と思へど、何虎の洋紙店にもあり。三 は當分開催出來ぬ■一 木炭パステル等の定着液としてアラヒゴムは完全なりや、アルコールに松脂を溶かしたるものは如何に四 自然には生々しき色を見ることあり、繪として美を感ぜず。如何にしてよきよきや(一讀者)◎一 それにて定着するか知らねど試し見ねば知らず、普通のフイキサチフを用ひた方が安全ならん、パステルの如き殊に然り四 生々しい色に感じたら、其儘寫してよからう、調子さへ合へば生の色を使つても美觀を損ふことなし二 は非常の高價にして貿易商の手許に斷片があるばかり、寫眞版はあるか否不明三 も不明◎小美術家君へ一 は大日本繪畫講習會の『講義録』、博交舘發行の『最新水彩畫法』等よからん、『水彩畫階梯』は品切なり二 は必用といふ程でもあるまいが、一讀すれば参考となる三 は『畫道一班』『藝苑雑稿』など可ならん◎晩秋生氏へ一 は日本橋金港堂發行にて、井汲氏著用器畫法第二よからん、解説共にて三十八銭と覺ゆ二は無論水彩畫三は專門家になる人には木炭畫のみ敎ゆ

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