公設展覽會水彩畫素人評
『みづゑ』第六十八
明治43年11月3日
市街(石川欽一郎氏)臺灣邊の町の通りを描いたのらしい、塲中の水彩畫中一番よいと思つた、例の輕快なる筆つかいは到底他畫伯の眞似ねる事出來ぬ所だ、實に色彩の豊富な活氣のある先生獨特のものだ。
燈下(夏目七策氏)常ながら人物の上手なのには敬服の外ない、よく燈下の色が出てる、我々素人には惡い處を見出す事出來ぬ同氏の靜物はバックの色と花瓶の色が等しい樣で、其れに花瓶の色彩は品のない色だ。
戸山原(橋本吾一郎氏)此繪は一度戸山原で描いてる處を見た事がある、其時は別に感心はしなかつた、地に生いてる一面に一尺も長い草をどう云ふ風に描くかと思つて居つたが、此處で見ると案外にラクに出來て感じも出てる。
夏の野(森本茂雄氏)水彩で一風變つた描き方だ、油繪ではこー云ふ描き方はよく有るが水彩では初めてだ、中々面白い、夏の強烈な感じを出すには適してゐると思つた。
白薔薇(鈴木錠吉氏)花が少し眞の花より堅いと思つたがなかなかよい、清流は之より惡くないかしら。
讀書(赤城泰舒氏)顔や手はたしかに夏目氏にをとる樣に思つた、殊に本を以つてる親指が妙だ。
靜けき夕(相田寅彦氏)氏の三點の内で之が一番スキだ、開場してから四日許りより經たないのに最早賣約濟の札が着いてる湖畔は湖の向ふにある山のコバルトが變だ、山水の秋はイヤに暗いキライな繪だ。
以上の外神の森(吉田ふじを氏)曇り(大橋正堯氏)日没後(榎本滋氏)春(大下藤次郎氏)若松(水野以文氏)なとが面白い。
テームス河畔(三宅克己氏)價は非常にたかいが他の繪に比してサツパリ我々には面白味が無かつた、其他未だ大分あるが皆日本洋畫界の繪舞臺へ出るくらいのものだからステキな繪ばかりである。(北畠孚明)