畫の品位(中村不折氏=中學世界)


『みづゑ』第六十九
明治43年11月20日

 假りにこゝに一つの畫がある、感情もよく出てゐるし物質もよく描かれてゐるし色彩濃淡もまた如何にも巧妙である。併し若し其畫にして品位なくばそれは何等の價値ないものと云はれる。かく品位は以上の諸技巧の上に位して、技術としては一番尚いものとなつて居る。
 雪舟の作品を、今の畫家が描く巧妙な畫に較べると、無技調で價値なきものゝ如くに思はれるが宜く比較して見ると、超然として一段高い處にあるやうな感がある。それは雪舟の繪には品位があるからである。如斯品位の如何は實に其総の價値を定めると云はねばならぬ、從つて品位といふことは非常に尚まれるが是れが又出來難い事である。
 若し畫家にして其人格が低かつたら、如何に努力しても作品の品位は出來ないものである。

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