関西美術會展覽會を觀る

大下藤次郎オオシタトウジロウ(1870-1911) 作者一覧へ

大下藤次郎
『みづゑ』第六十九
明治43年11月20日

 關西美術會はこの秋第九回展覽會を京都岡崎の美術館跡で開かれた、私は丁度小豆島に寫生旅行にゆく途次、鹿子木寺松諸兄の御案内をうけて一覽した。
 會場は東京の竹廼臺陳列舘には劣るが、光線の工合も佳良で、陳列場として悪くは無い。繪畫の出品二百四十五點のうち水彩畫は九十六點あって中々盛むである。
 僅々三四十分間の瞥見に過ぎぬから批評は出來ぬが、其際感じたことを少しく陳べて見やう。
 由來關西に於て、殊に京都に於ては、故淺井先生の瀟洒にして、淡白なる畫風の感化と、日本畫の影響とにより、關西の水彩畫といふと色の貧しい調子の弱いものばかりであつた、然るに東京博覽會、次ては文部省美術展覽會の開催によつて、關西の人の畫に對する考は變って來た、枯淡貧弱なものでは展覧會場に他から蹴落される、次には鹿子木氏の力強い畫風は大に刺戟を與へたため、漸次輕い調子が漸く重くなつて來た、筆先の技巧より脱して一歩進んて自然に對し眞面目な研究的態度が現はれて來た、今度の展覽會には其徴候を充分認むることが出來る、私は關西書界の前途に多大の望を囑しつゝ會場を出でた。
  (十一月四日)

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