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『みづゑ』第六十九
明治43年11月20日
□本號は臨時増刊にして、初めは白峰の麓たゞ一編だけにて一部に纒める考なりし故、特別號として送料を要求致し候へども都合により普通號と改め申し候につき、代價は平生の通りにてよろしく、既に送料御拂込の方は、次の御迭金の際御差引湘成度候
□特別讀者は別に一册分御拂込被下候へば難有存候
□本號挿繪は、四枚共白峯の麓旅行中の所作にして『落葉松』と『堤の柳』は八寸に一尺二寸、他の二葉は一尺に一尺五寸大に御座候
□前號『鰍澤の秋』も當時の寫生に御座候
□挿入の原色版は、毎度申通り、田中製版所に於て特に秀でたる技倆を有する唯一人の技手の手に成るものにて、氣候の關係仕事の繁閑により多少の出來不出來はあれど、其不出來なるものにても決して他の雜誌の口繪に劣らぬことゝ自信致居候。またその製版順序は、二三ヶ月前より原畫を渡し置き、製版に着手し、不出來の時は更に版を改め、本誌發行迄に印刷致すことに相成居候、されど時としては、校正は立派に仕上りても、天氣都合にて用紙の伸縮等あり、印刷の出來上り不結果に終ることも有之候、さて印刷濟の上は、たとへ多少不結果となりし時にても、高價の製版畫を取捨つることも出來ず、時日の上に代りのものを急造することも出來ず、編者に於て不満足なからも不得止挿入發行致候次第に御座候、或る讀者は、不出來なものは載せぬがよいとの御注丈なれど、これ現在製版術の幼稚なる時代に於ては萬止を得ざる事にて、左樣に嚴重にしたなら毎月一枚の挿畫を出すことさへ六つかしく叉た左様な贅澤も許されまじく候、何卒前記の譯合、を御含み有之度候、勿論不出來不満足と申も比較的の話にて、全然原畫と相違して居ると申にも無之候、何も一々紙面に斷りをいふには及ばねど、不出來のものを上出來らしく風聴するは好まぬ故これ迄書添へしに過きす候
□冬期水彩畫講習會は概略左の通り決定致候、宿所其他は次號に發表可致候
一會場静岡市物産陳列舘
一 期日 四十四年一月三日より七 日迄間晝夜
一 課目 水彩畫に關する實技及講 話(戸外寫生を主とす)
一 會費 大下藤次郎氏
一會費金壷圓(會友と雖も割引 なし)
一 申込所静岡市安西南裏町七、比 奈地眸川氏方及び本會
一 申込期日 十二月二十日
以 上
□旅舎は用意し置くべく、多分一日三食五十銭内外に候
□一月八日は日曜日なれば在學の方にても七日迄の授業は差支あるまじく候
□繪具其他は静岡市に販賣店あれど、出席者にして文房堂割引券御入用の方は送料を添へ本會へ御申出あれば進呈可致候