問に答ふ
『みづゑ』第六十九
明治43年11月20日
■過去三年間一週に一度づゝ木炭畫を習ずしが、今は田舎に在つて野外寫生をなせど正確な研究が出來ぬ、かゝる境遇に在るものは如何にして、デッサンを正しく學び得べきや、若し石膏を求むるとせば何が欲きや、(越後の一女)◎木炭畫の素養が幾分でもあるなら、はやり石膏から研究してゆくがよい、東京赤坂高樹町菊地鑄太郎氏にカタログを請求すれば形状や代價はそれで分る、初めは女や小兒りも老人がよい、羅馬希臘あたりの正しい形武のものがよい、白布其他の靜物寫生もよい、たゞ飽く迄も正確にやらねばならぬ■二 チユーブ入繪具は長期保存する變色せぎるや四水彩畫は獨習書によきて學び上達し得るや、叉何といふ書がよきや(SH生)◎一鉛筆畫には、輪廓をとるのにHB印、實線を畫くにはBB印位ひが適當なれど軟らかなら何でもよい、水彩畫の輪廓にはHBでよい二 製造會社による、和製品は請合へぬ、通常攣色はせぬものなれど質は變つて硬くなるのがある三 鉛筆若くは木炭寫生から始める四敎師に就くことの出來る人は獨習書によらぬ方がよい、獨習書としては『最初水彩畫法』を勸める、それにして畫いたものを誰れかに見て貰はねばいけぬ■一小さき石膏類は二三倍に擴大して描きくの利害(藻峰生)◎一時により擴大なることあれど、可相成は實物大、若くはそれより稍★大きい位ぴの處に止めた方がよい、あまり大きく畫くと部分々々に問が出来ていけぬ、また注意すべきに、近くで畫いた時と遠くで畫いた時と必ず其心持を異にしなくてはいけぬ、遠くで畫きながら、目や耳のよく見えぬ處をワザワザ近くへよつて見る人があるがあれはいけぬ、遠くでは遠くで見た丈けでよい