寫生趣味より


『みづゑ』第七十 P.3
明治43年12月3日

 美術は元來世潮外に超然たる可き性質のものにはあれど。人が製作し人が樂しむ以上は勢ひ其間に流行なるものが現ばれざるを得ず。狩野派の雅朴なるが流行する時もあれば浮世畫派の艶麗なるが受けらるゝ時もあらん。油繪が勢を得て水彩畫が振はざることあるも之れ一時の現象に過ぎず畫其物の價値には何等の増減あるにあらず。
 日本人の氣性と手の働きより考ヘ且又日本畫は古來日本人に密接の關係ある一種の水彩畫なることをも思ふに於て日本には油繪よりも水彩畫が寧ろ適するには非らざるか。且大なる規摸のものには不可なるべしと雖も元來我邦の風景と云ひ生活と云ひ凡てが敢て大なる規摸には出來居らず。豈に美術のみが之と連絡を斷ちて獨り大なる規摸なるを要すべきや。(爲生趣味)

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