談片


『みづゑ』第七十 P.16
明治43年12月3日

 竹柏園主人の歌の手引を見ると『ある時野州の方へ茸狩に徃つた、案内してくれた人はイクラも見っけるが自分には何處にあるか少しも分らぬ、案内者は見兼ねて、ソラ足下にありますといふ、それでも分らぬ、終には二尺程の圓を畫いて此中にありますといふ、それでもやつぱり分らなかつた』といふ。歌にすべき材料はこの茸の如く足下に生へてゐても素人には見出せない。寫生でも同じことなり、寫すによき題目は實に諸君の目の先に轉がつてゐるが、それが中々發見されなくて、わざわざ遠方迄重い道具を擔ぎ出しおまけにあれてるないこれでもないと一日ぶらぶら何もせで過して仕舞ふのだ。

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