寄書 白馬會展覽會の水彩畫を觀て

夏月生
『みづゑ』第七十
明治43年12月3日

 十一月一日より十日間、第二回白馬會洋畫展覽會は、當地三越呉服店内に開かれた。
 陳列された作品は誠に調子良き傑作揃ひにて、――中には多少怪しいものもあったが、―僕の胸を大いに躍らせた。多くは色彩は、豊富で、活氣に冨んで居た、惜むらく、水彩畫に三宅氏作品が一點も無かつた爲に、少し寂寞の感がなきにしも非ずであつた。然し、湯淺氏の作數點が、この憂を解くに充分であつた樣に思ふ。一此内で、-僕が良い出來であると思った數點を、指摘して見やう。―但油繪を除く。
 テームス河畔(南薰造氏)誠に心持のよい無難の作であつた只雲に少し首を傾けた。其他、氏の英國田舎風景もよい、ぺナンの家は、少し色があくどく、多少の失敗は免れない。
 水車(湯淺一郎氏)氏の作三宅氏の色彩に似て非なるもので、誠に活々した心持がする。殊に此圖は僕か一番良いと思つた。
 他の作も皆僕に深き印象を與ヘた。
 小松喜代子氏の作四點は、女性に適した圖柄で、優しかつたが少し色彩の何處かに弱い處があつた。
 月島スケッチ(吉田喜藏氏)素人好のする作で無難であると思つたら、果して赤札が付いて居た。
 其他、隨分佳作も多かった、又中にはいかゞわしい駄作もあつた。それから、東季久氏の鉛筆畫が、五點一とまとめにしてあったが、展覽會で見る丈の價はなかった樣である。
 油繪には、参考品として、外國大家の作三點あり、又、黑田、中澤、跡見等諸氏の名作も澤山あった。

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